声枯れ

 会社にて、私の声を聞いた口の悪い人が言った。


「第二次性徴期遅くね?」


 誰が声変わりじゃコラァ。

 こちとら十年以上前に済ませとるわオラァ。

 シンプルに喉枯れじゃウラァ。


「酒焼け?」


 ここ二週間ひっきりなしに風邪ひいて一滴も飲んどらんわドラァ。


 そんな話をしていると、会話を聞きつけた上司に強制自宅送還を命じられました。明日も休めとのことです。

 わあ、長期休暇。


「どこでもらってくるのだ」


 そういうわけでおうちにて半纏着てボーッとしていると、武士が話しかけてきた。

 何? もらってくるって何の話? お歳暮?

 あ、風邪か。


「大家殿は生業にてあちこちに出かけておるからなぁ。ついでに病ももらってくるのだろう」


 そうだね。


「しかし! 大家殿とこうして共に過ごしている某は、まったくの元気であるぞ!」


 そこだよ。

 なーんでお前は風邪ひかないわけ? もしや何かやってる? ヤバめの薬みたいな。


「薬?」


 あ、いや、ごめん忘れて。

 でも気になるなぁ。ねぇ武士、なんか健康の秘訣とかあんの?


「うむ。いくつかあるが、今すぐできるとなれば呼吸法だな」


 ……。


「こう、丹田に力を入れてな。鼻で息を吸い、口から吐く。息を吸う時には新しき空気を指の先まで満たすことを想像し、そして吐く時には悪いものを押し出すことを想像するのだ」


 ……。


「これを繰り返してしっかり食べてしっかり寝ていれば、風邪など容易に近づいて来ぬ」


 もしかして鬼滅の刃で何らかの柱でもしてました?


「いや、これは刀の師範に習うた」


 そういやお前江戸時代の武士だったね。かっけー。

 よーし、早速試してみるわ。


「うむ!」


 ……あー、ダメだ。鼻詰まってるわ。もう最初の一歩ができねぇ。鼻から息吸えねぇ。呼吸法破れたり。


「なっはっは、なんだその声は」


 今更だねお前ー。

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