手に入る幸せを
「“これが無いと自分は幸せになれぬ”と思うておる者は、大抵それが手に入っても幸せになれぬぞ」
そんなことを武士に言われた日も、
私はビックマックを食べていた。
え、いきなり何すか。
「げぇむのがちゃ」
あー、あれね。私が最近やってる奴ね。
そんで私が「あー! これが手に入ったら幸せになれるのになー! 最高なのになー!」っつってたのをお前覚えてたわけか。
「うむ」
時間差あり過ぎね? 一昨日の話よ?
「今思い出した」
ハッピーセットについてくるオモチャで遊びながら?
まあいいか。でもさ、武士だって可愛い靴下集めるの好きじゃん。もしあれがガチャガチャでしか出なかったらって考えてみてよ。「あー! これが手に入ったら幸せになれるのになー!」って思わん?
「物を集めたいその心はわかる。某の父とて、蒐集家であったからな」
あ、そうなの?
「そうだ。我が父も、よく『あれが手に入ればなぁ』とぼやいておった。だがそれ故にトラボゥも生まれたものよ」
おい待て今何つった? 虎棒?
トラボゥ……トラ……あ、トラブル?
いやなんでネイティブに寄ったのよ。
まあ、でもそうだよな。集めたくなったら、お金かけちゃうもんだし。それで身を持ち崩しちゃう人もいるぐらいだし……。
「いや、某の父が集めておったのは簪(かんざし)でな」
……。
「ところがある日、それを買っている所を母に見られていた。母は当然自分が貰えるものと思っていたそうだがな、何せ父用なのでそんなはずもなく」
……。
「一向に簪を贈られる気配が無く業を煮やした母が、ある日とうとう父の不貞を疑い、結果我が家はえらいことになった」
わぁ。
「父も父で、簪集めをひた隠しにしておったからな。それはもう面白いぐらいに拗れたぞ」
わぁー。
「そういうわけだ。“これが無いと自分は幸せになれぬ”と思うておる者は、大抵それが手に入っても幸せになれぬ」
まさか冒頭の格言がただの痴話喧嘩に繋がるとはな。
いや、うん。でもなんか身に染みたから、これからは自分の持ってる幸せにもっと目を向けることにするね。ありがと。
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