風が強い

 今日は風が強い。


 風が強かったら、いくらかトラブルがあるもんだ。やれ洗濯物が飛ばされただの、やれスカートがめくれただの。

 え、うち? うちに関しては……。


「マゲがぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ベランダで洗濯物を干している武士が、頭を押さえてうずくまっていた。


 ……いや、聞いたことねぇよ。そんな弊害。


「ぬぬぅ、大家殿! この風だとどうしても髷が乱れてしまうのだ! 今日の洗濯係だけはどうか代わってもらえまいだろうか!」


 やだよ。お前ジャンケンに負けたじゃん。


「五回勝負にしようぞ!」


 最初は一発勝負だったのをお前が三回勝負にしようって言い出して、その上で負けてんじゃん。


「……話し合いで!」


 つーかそもそもお前が今日の洗濯係だからな? そこんとこ忘れんなよ?


「むぐぅ!」


 ……。


「……」


 ……めっちゃ期待込めた目でこっち見てるなぁ。

 なんなの、ほんと。


「大家殿! いよっ、色男!」


 クソみてぇな太鼓持ちだな。雑なんだよ、持ち上げるにしてもよ。


「金を稼ぐその姿は花川戸の助六もかくや! いよっ!」


 分かんねぇ分かんねぇ。


「……大家殿ぉ」


 ……。


 ……。


 ……いや、やれや。


「ぬうぅぅぅぅぅ!!」


 ほれ、帽子かぶりゃ何とか防げるだろ。


「賢き男よ!!」


 はいよ、どうも。


「では行ってくるぞ! あ、実は先ほど大家殿の下履きを飛ばしてしもうてな。下の植え込みに落ちておるから、取ってきてもらえんだろうか」


 お前!!!!


 ふっざけんなよ、マゲ全部毟んぞ!!!!

 がぁぁぁっ!! ベランダに逃げやがった!! 閉め出すぞこのバカ侍!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る