味噌汁
武士がまだ来たばかりだった頃の話。
「大家殿、流石にそれは人としてどうかと思う」
向かいに座る武士の一言に、私は神妙に頷く。
コイツの言い分は、正しい。間違っているはずもない。
何故なら、私もまあまあ突っ込まれるかなと思っていたのだ。
武士は、ため息と共に私の前に味噌汁を差し出した。
「……何故、大家殿は味噌汁の具だけ食べて、汁を残すのだ」
ですよねー。
「いや、おかしいであろう。最初は気のせいかと思っていたのだが、やはり何度見ても汁だけ残っておる」
……うん。
あのね、ほら。
私、ラーメンとかうどんでも、汁は残すんだよ。
「ほう」
それと一緒かな、と。
「……しかし、あれは麺が主役であろう」
……。
「大家殿は、“こーんすーぷ”のこーんだけ食べて、後は残すのか?」
……。
……残さないです……。
「うむ」
……。
「味噌汁は、具に味噌味をつける汁ではない。主役なのだ」
……返す言葉もありません……。
そんなわけで、その後はちゃんと味噌汁を飲むことになった。
味噌汁美味しいです。味噌汁に罪は無い。味噌汁最高。
しかし、今思えば武士に面と向かって行動を変えられたのは、あれが初めてであった。武士が来なければ私は今も味噌汁の具だけ食べてたんだろうな、と思うと、味噌屋さんに申し訳ない気持ちがしてくるのである。
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