カタログギフト

 結婚式の引き出物に、カタログギフトをもらった。


「ぬぬう、これほど豊富だと迷い甲斐があるな」


 武士はうつ伏せで足をパタパタさせながら、カタログギフトの中身を吟味している。武士たるものが何たる態度だ、と言うと、「今日の武士は閉店ガラガラである」と返ってきた。

 じゃあ今のお前武士じゃねぇのか。ヤベェ、何て呼ぼう。


「しかし、この本の中にあるものが何でも一つ、好きに手に入るとは……」


 武士(暫定)は天井を見上げ、しみじみと言う。


「素晴らしきかな、泰平の世」


 せやな。


 戦乱の世にはカタログギフト無いからな。


 ……。


 いやお前、江戸時代の武士だからだいぶ泰平じゃなかった?


「む、これなどどうだ、大家殿!」


 私のツッコミを無視し、武士はとあるページを指差す。

 なんだなんだ。


 たこ焼き器?


「これさえあれば、無限にたこ焼きが食べられるぞ!」


 ああ、それは一つあるかもなぁ。


 でもさぁ、これとかもどうよ。


「ぬ、肉であるか?」


 最高級肉。普段なら絶対買わねぇだろ。食べてみようぜ。


「ぬぬぅ、食べたら無くなってしまうことだけが難点だな……」


 ああ、分かる。

 なんとなくこういうのって、残るもの選んじゃうよな。

 でもスナフキンも言ってたじゃん。「ものなんて心配と荷物を増やすだけ」って。


「砂布巾?」


 なんだその拭けば拭くほど汚れそうな布巾。

 とにかく、私は食べ物でもありだと思うよ。


「しかし、梅干と同じ値段の牛肉とは……」


 あー、バッカおめぇ梅干ってすげぇやつほんとすごいんだぞ? 知ってる? 種まで味ついてんの。あれは赤い宝石だ。


「ぬぬぬ……決められんなぁ」


 だよなぁ。

 決める時間も楽しいもんだけど。


「しかし、大家殿。最近腹の出方を気にしておっただろう」


 デテマセンヨ?


「ならば、こういった体を鍛えるぐっずにするのはどうだろう」


 デテマセンカラ、ダイジョブデスヨ?


「これなど良いではないか! 体幹を鍛える! 乗っているだけでうまいこと腹が引っ込むのだ!」


 ダカラデテマセンテバ。


 そうして、 武士の計らいにより、半ば強引にうちにダイエットグッズが届くことになったのだ。

 だが、ぶっちゃけ私より武士の方が使っている。


「ぬぬぅ! やはりこれは楽しきものであったな!」


 武士は不安定な円盤の上に乗り、楽しそうに揺れている。

 それが魂胆だったか。なんてやつだ。

 自分の欲しいもの手に入れるために、人の精神抉るのやめろってマジで。


 オナカデテイナイ。

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