なんだか最近、突然夜が寒くなってきた。


 そうなると、鍋が美味くなってくるのは必然である。


「大家殿、これが約束の品だ」


 そんなわけで、武士に鍋の材料を買ってくるよう頼んだのだ。

 神妙な顔でポムポムプリンのエコバッグを差し出す武士に、私は鍋奉行としてしっかり頷いた。


 まず、一品目。


「長ネギである」


 よし合格。次は?


「鶏肉である」


 つみれ美味しいよね。他は?


「えのき茸、豆腐、もやし、白菜」


 すごい、すごいぞ武士。完璧じゃないか。

 私はバシバシと武士の肩を叩いて、労をねぎらってやる。


 だが武士は、まだ全ての材料を出したわけではなかった。


「大家殿、これを……」


 袖の下の小判のごとく、そっと武士はある袋を差し出す。


 お前……これは、まさか……。



 薄切り餅……!?



「絶対に、美味い」


 分かる。絶対美味いわ。


「そして、らぁめん」


 バッカお前それ神が与えし供物じゃん。

 腹いっぱいなのに不思議とスルスルイケるヤツじゃん。


 よし、それではキムチ鍋と洒落込もうじゃないか。あんまり辛すぎるのは武士が苦手かもしれないので、牛乳と味噌を足してやる。まろやかになるし、コクも出るしでまぁ白米が進むんだコレが。


 案の定、武士は恐ろしい勢いでかっこんでいた。いやー、寒い夜に囲む鍋は本当に美味いよね。


 そんでさ、お前にちょっと聞きたいことがあるんだけど。

 私がここで育ててた肉、知らない?


「沈んでいたから食べた」


 どういう理屈?


 代わりに武士が育てていた餅を奪い取った。殴り合いの喧嘩に発展しかけたが、ラーメンを鍋にぶち込んだら自然と気持ちが収まったので、やはり鍋は平和の象徴に違いない。


 そんなことを思いながら、炭水化物をもりもりと取って明日への元気を蓄えたのである。

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