タコ助
家に帰ったら、同居人が増えていた。
赤くて、ふかふかしていて、八本の足がぐるりとその身を取り巻いている。
――タコだ。
どこからどう見ても、タコのぬいぐるみだ。
おいコラどういうことだ武士。
「すまぬ……っ! すまぬ大家殿……っ!」
腕に抱えられるぐらいの大きさのタコの後ろに隠れるようにして、小さく縮こまった武士は弁解する。
「その、あまりにもかわいくて……っ!」
お前この間も同じ理屈でたれぱんだのコップ買ってたじゃねぇか!
「かわいい」のハードル滅茶苦茶低いお前がそのノリで物買ってたら、私の部屋一瞬で埋まるからな!?
大人しく私の怒りを受ける武士を尻目に、私はタコの頭を鷲掴みにする。
そしてそのまま、自分の目の高さに持ってきた。
……ふかふかだ。つぶらな瞳が、愛らしい。
「タコ助……」
もう名前までつけやがって……。
呆れて武士を見下ろすと、彼は情けないほど眉尻を下げて懇願してきた。
「堪忍してくれ、大家殿。人形はタコ助だけで我慢すると約束する。だからどうか、タコ助を捨てることだけは……!」
……別に捨てるとは言ってないよ。
うん、まあ、案外タコ助可愛いしな。
でも、今後は何か買いたいものがあれば、私に事前に言うんだよ。じゃなきゃ破産するから。お前だけじゃなく私も路頭に迷うから。
武士はガバリと頭を上げると、また土下座をした。
「かたじけないっ!」
……今思ったんだけど、こいつ結構すぐ土下座するんだよな。おとといも、『きのこの山』勝手に食べて土下座してたし。
お前、私が『たけのこの里』派じゃなきゃ追い出してたからな?
「よかったな、タコ助! お主も今日から我らの家族だぞ!」
タコ助の足を二本掴んで、狭い部屋の中で舞う武士である。
……ちょっと待て。私は既にお前の家族に認定されているのか?
引っかかったが、案外武士の舞いのキレが良くて面白かったので、黙って眺めることにしたのである。
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