第4話 意外な交友関係

 ケントさんやウィリアムさん達との毎日の食事は、騒がしくも楽しく時を過ごせるリフレッシュタイムとなっていた。

 夕食の時にまた皆で顔を会わせる約束をしたのだけれど、まだ時間があるので少し学内を散策しながら、ウォルグさんを探してみる事にした。

 彼には、パートナーの件で返事をしなくてはいけないものね。この話を受けるにしても断るにしても、ウォルグさんとはきちんと話し合う時間が必要だわ。

 私が今向かっているのは、確か男子寮のある方向だったはず。

 この学校では、午後五時までは異性の寮へ立ち入る事が許されている。

 ルディエル学院は完全に立ち入り禁止だったが、異性の生徒に用事がある時は不便で仕方がなかったのをよく覚えている。

 ただ、例外として王子であるセグと花乙女のみは許可が出されていた。それを利用して、セグに夜這いを仕掛けようとした花乙女が居たけれど……勿論、私が阻止した。

 その女は私の次に選ばれた花乙女だったはずだから、もうとっくに彼の婚約者として学院生活を送っている事だろう。ちょっぴり彼の身が心配だが、他の花乙女達も止めに入るはずだ。

 そんな事を思い出しながら、私は男子寮へとやって来た。


 寮は男女で東側と西側に分けて建てられており、更に学年別で建物が用意されている。

 こうして少しずつ学校内の施設の場所を覚えていかないと……と思いながら歩いていると、背後から声を掛けられた。


「……ん? そこに居るのはレティシアか」


 背後に目をやると、そこには何故かアレク先生が立っているではないか。


「アレク先生? どうしてこちらに……」

「ああ、ケントに茶をご馳走になる約束をしていてな。君も一緒にどうだ?」


 ケントさんとアレク先生が、午後のお茶会を……?

 クールで考えが読めない方だけれど、案外フレンドリーな面を持った人なのかしら。


「ええと、私はケントさんと同室のウォルグさんにお話がありまして……」

「そうか。ウォルグなら、果樹園の方で見掛けたぞ」

「分かりました。では、そちらに行って参りますわ。教えて下さってありがとうございます」

「いや、礼には及ばん」


 そう言って、先生は男子寮に入っていくのだった。



 先生に言われた通り、私は果樹園のあるエリアまで移動した。

 かなり広い敷地面積を持つセイガフでは、植物の育成を研究する生徒の為に畑や果樹園が用意されている。

 そこで採れる野菜や果物は、育てた生徒から安値で買い取る事も可能なのだ。

 ウォルグさんも何か育てているのか、それともお菓子に使う果物を買いに来たのか……。

 遠くの方に畑や果樹が見えて来た。

 すると──


「うわっ、逃げろー!」

「どこに飛んで行くか分からないぞ!」


 急にそんな叫び声が聞こえて来た。

 私は、急いでそこに駆け付ける。


「何がありましたの!?」


 近くまで逃げてきた女子を呼び止めると、その子は怯えた様子で向こうを指差して言う。


「ま、魔法農薬の副作用で、果樹が暴走してるんです! 向こうの方で上級生の方が対処してるんですけど、あっちこっちから果物が大砲みたいに飛んで来て……!」

「そんな事があるんですの……?」

「う、嘘だと思うなら行ってみて下さい! ……と、言いたいとこなんですけど、あの速度で飛んで来るリンゴが頭にぶつかりでもしたら大変です! あなたもすぐここを離れた方が……」


 言われてみれば、果樹園の方角からおかしな魔力が動いているのを感じる。


「……防御なら問題ありませんわ。あなたは早くここを離れて、誰でも良いから先生をお呼びして下さい」

「ま、まさか……あなた一人であんな果物の戦場へ飛び込むって言うんですか!? 危ないですよ!」

「私はこの学校で、最も防御魔法に長けている生徒だといっても過言ではありませんわ。林檎だろうと大砲だろうと、何でも防いでみせますわよ!」


 私はその場で頑丈な防御膜を展開する魔法を唱え、それが全身を覆ったのを確認して走り出した。

 後ろであの女の子が必死に叫んでいたけれど、私はそれでも足を止めずに突き進む。

 あの子は、上級生が暴走した果樹に対処していると言っていた。もしかすると、その上級生はウォルグさんの事かもしれない。


「待っていて下さい……すぐに私が、行きますからっ!」


 近付くにつれて、何かが空気を切り裂く音と、鈍い衝撃音がいくつも耳に届いてくる。

 何百本もの枝が暴れ狂い、実った果物達が逃げ惑う生徒目掛けて飛んで行く。

 彼女の言葉は、本当だったのだ。

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