第67話 リスタート

 首都フェラガモにアリスティーの一行は辿り着いた。そして、例のカフェへと入く。


「やっぱりここにいた。ここで働いているって聞いたけど、案の定そうだったわ」


 愛理はカウンターの中にいる少女に声を掛ける。その少女は錦野だった。


「へへ。ばれちった?」

「そりゃもう。元大統領の情報網を甘く見ないで」


 錦野は気まずそうに俯き、染み一つもないフローリング床を見た。


「愛理は……その……帰るんだよね、日本に。大統領を辞めたってことは、そういうことだよね?」

「そうよ。やっぱり高校は卒業したいもの。日本でのアイドル活動も宙に浮いちゃってるし、お母さんに何も言ってこなかったし」

「錦野先輩、一緒に帰りましょう。アリスティーの作曲は、やっぱ先輩しか考えられないッスから」

「そうですニャー」


 美砂と朋世が口にする。


 錦野は顔を青ざめさせ、ふるふると首を振るばかりであった。


「そんなこと言われても……私、どうしていいのか……結果的にパラダイムのことで、皆を裏切っちゃったし……かといって、今更鳥谷さんの所へは戻れないし」

「ちょ。ちょっと、あかり。あれは仕方ないじゃない。一度耳コピしただけで、鳥谷さんがモノにしちゃったんだから。あれは、事故みたいものよ」

「そんなことない! 大統領官邸で、周囲の確認もせず、迂闊に弾き語りをした私が悪いの! ご免ね、愛理。自分でもどうしていいか分からない……しばらくこのままでいさせて。もう私のことなんか放っておいてよ!」

「そんな訳いかわないわよ! 親友を放っておける訳ないでしょうが!」

「ご免、愛理。本当にご免」


 錦野はバックヤードから逃走しようと計った。愛理はカウンターに乗り上がり、後ろから錦野を押える。


「う、ウェートレスさん! 今のうちに次元転送を!」


 美砂が叫ぶ。ウェートレスは「了解」と口にする。


「ウェートレスさん。今、日本はいつなんだにゃ?」

「えーと。貴方達が再びこっちに来て一ヶ月経ったから……日本だと丁度一時間だけ時が進んでいるところね」

「そ、それは良かった。それなら、ちょっと午後の授業をエスケープしただけってことで済まされるよ」


 美砂は安堵の息を漏らす。


 愛理は必死に錦野を押さえつけていたが、するりとその手から離れてしまった。


「待って、あかり!」

「待たない。もう私のことは放っておいてよ!」


 錦野はヒステリックに叫び、店外に出ようとする。そうなったら元も子もない。次元移転が完了する前に店を出たら、トレビック国にいるままになってしまう。


「あかり……」


 愛理はポツリと漏らす。その声にハッとし、錦野は振り向いた。


「一緒に……いて……」


 懇願するような声だった。


「愛理……」


 逃走を図った錦野だったが、カウンターの向こうから、愛理が必死に伸ばした手をギュッと握った。




「はい、完了。はい、あんた達お疲れさーん」


 ウェートレスはお気楽な調子で口にした。


「次元転移が完了した!? ここは日本なの?」


 美砂は驚きつつも、カフェの店外に出る。

 そこには懐かしい光景が広がっていた。昭和通りが見え、電気街も見える。萌えのお店も、JRの高架線も見える。

 美砂に引き続き、朋世も外に出た。


「はえー。こりゃまた秋葉原だにゃー」

「そうだねぇ」


 美砂はしみじみとする。軽く言ったつもりだが、その言葉には重みがあった。

 なにせ、異世界で様々な――この日本では、絶対に体験できないことを沢山してきたのだから。


 特に、ライラとカティアの特訓は身に染み込んでいる。彼女達の糧となったのだ。


 美砂は万感の思いを込め、コーヒーショップを向いて頭を下げる。

 そして、それは間違いではなかった。そこはあの異次元に――トレビック国に繋がっているのだから。


 一足遅れて愛理と錦野がカフェから出て来る。お互いに顔を見合わせ、頬を赤らめた。改まると照れくさくもあった。


「さってと、あかり」

「ん?」

「とりあえず、戻りましょうか、我が母校に」


 錦野はスマートフォンを取り出し、時刻を確認する。電波はしっかりと届いており、液晶画面には一時半と表示されていた。


「……そだね。そうしようか」


 錦野は照れて頬を掻く。愛理は彼女の手を取り、秋葉原駅へと駆け出した。


「ま、待ってよー」


 それに朋世と美砂がついていく。


 愛理達は取り敢えず活動再開するした。あの学校の屋上で。あそこから初心に返り、一歩一歩踏み出していこうと考えていた。











 ***




 一方、アリスティーが不在となった異世界。


 トレビック国では愛理達の功績が称えられていた。在籍期間こそ短かったが、長年敵国であったフェラール国と不可侵協定を結んだ偉大な大統領として、歴史にその名を刻んでいた。




 トレビック国のオーツ村。戦火に晒されたこの村だが、着々と復興は進んでいた。大統領になった愛理が、この村の復興支援に注力したのだ。


 村にいる少女は空を見上げる。そこは戦時下と違い、蒼く澄んだ空が輝いていた。


 平和っていいなと少女は思った。




 ***














 再び日本。


 黒百合女学園の屋上で、アリスティーの三人は、ラジカセから流れる楽曲に合わせ、ダンスの練習に励んでいた。


 リスタートだ。何もかも。レコード会社からのオファーも断りを入れることにした。


 アリスティーはリセットボタンを押し、一から始動する。アイドル活動の最初の場所、学校の屋上で。


 そこには、錦野もいる。彼女がいてくれたら、何も怖いものはないと、愛理は感じていた。


 屋上からのぞいている茜色の雄大な太陽が、その西日が。そんな彼女達を祝福するかのように、輝いていた。

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JKアイドルは異世界で成り上がる(改稿版) ラミエル @tikupen

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