第64話 互角の勝負

 そこで会場に司会のナレーションが流れる。


「それでは皆さん。お手元にお持ちの魔道タブレットで、どちらのアイドルが良かったか、投票して下さい!」


 このアリーナにいる観衆の投票が、魔道ネットに反映され、即時開票される仕組みになっていた。


 会場にいる皆がタブレットを持ち、投票を始める。アンドレ達親衛隊は迷わずアリスティーに投票した。カティアもマリーもアリスティーに投票した。


「お前、どっちに投票する?」

「――っわっかんねーよ。どっちも良かったんだよ! どっちのステージも最高だったんだよ!」

「……だよな」


 スタンドにいる若者がそんなことを話し始める。


 同様に、どちらに票を入れるか決めかねるそれぞれのファンがいた。バニラホイップのファンは、バニラホイップに投票したい。

 しかし、アリスティーも最高のパフォーマンスを見せてくれた。どちらも捨てがたい。

 逆もまた然りで、悩み抜くファンが多かった。


「シンキングタイムは1分です。それまでに投票は締め切られます。どちらかに投票しなければ、無効票となってしまいますので、注意してください」


 司会が注意を促す。


 先程までのライブではあっと言う間に時が過ぎたが、今は時の進みが遅い。重苦しい一秒一秒が流れていく。


 ようやっと笛の音。終了を告げるホイッスル。


「シンキングタイム終了です! 投票は締め切られました!」


 司会が無情にも終りの合図を告げた。そして、間髪を入れず即時開票となる。


 視線を交わす愛理と鳥谷。

 ここに今、雌雄を決する時が来たのだ。至高のアイドル対決の決着をつける時が。


「まずは本日の入場人数。なんと8万888人です! このアリーナの観客動員数の新記録を達成しました!」


 会場がどおおおと沸く。


「速報が出ました! 39985票対39991票です! 僅差です! 僅か6票差です!」

「うおおおおおおおおお!」


 会場から歓声が木霊する。


「私の――」と愛理。


「勝ちよ」と鳥谷。


 どちらにも譲る気はない。




「このアイドル対決の勝者は――」


 司会の声にごくりと生唾を飲む。アリーナ全体が静まり返っていた。


「勝者、アリスティーですーーー!!」


 名前を呼ばれ、親衛隊長のアンドレの全身が粟立った。寒気にも似た電流が彼の背中をかける。


「よぉしゃあああああああ!」


 キャーと嬉しい悲鳴に包まれるアリスティーのファン。アンドレとジャックが抱き合い、マリーとカティアにも抱きついた。

 アレス山では、ライラが仲間のハーピー族達と祝杯を挙げた。


 ギャーと悲しい悲鳴に包まれるバニラホイップのファン。その人達は悲嘆に暮れ、ある者は「うそだろーーー!」と絶叫し、ある者は涙した。


 舞台袖では、朋世と美砂と錦野が抱きつき、喜びを噛み締めていた。

 錦野の胸中は複雑なものがあったが、アリスティーの長年のファン――それもファン第一号として、その勝利の喜びを素直に受け取っておこうと感じていた。


 ウェンディーとシルフィーも抱き合って喜んだ。ノームは一人寡黙に満足そうに頷いている。


「やりましたわーーー! 美砂おねぇさまーーー!」


 どさくさにまぎれてミーシャが美砂に抱きつこうとしたが、あっさりと羽交い締めにされた。


「愛理、おめでとう」

「ありがとう、鳥谷さん。貴方の背中を追いかけて……ようやくここまで来ることが出来ま……」


 そこで愛理は言葉を詰まらせた。万感の思いが胸に立ち込め、もはや言葉にならない。


「それじゃあ、愛理」


 鳥谷は手を差し出す。愛理がその手を握ろうとしたところに、サラマンディーが割って入る。


「馴れ合いは反吐が出らぁ。あたし達はライバル同士。だろ、愛理?」


 愛理は短く嘆息し「そうね」と口にした。

 愛理とサラマンディーと鳥谷は鋭い視線を酌み交わす。だが、その顔には爽やかな笑みがこぼれていた。



 かくして、至高のアイドル対決は終りを告げた。


 勝者となったアリスティーが大統領となり、鳥谷はその席を追われ退陣した。

 互角の勝負であったが、結果は残酷であった。そこには勝者と敗者しか残されていなかったのだから。

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