第63話 恐るべき大統領アイドル

 やはり、敵も然るものであった。トレビック国大統領アイドルだけあり、バニラホイップのステージは圧巻だった。


 終始飛ばす飛沫のリズム。鳥谷の華麗なダンスにそれに呼吸を合わせる一九人。そして、鳥谷の魅惑的な歌声。それらが全てシンクロし、バニラホイップのステージを形成していく。


 観客も熱狂し、鳥谷を呼ぶ声があちらこちらでした。

 いつの間にか鳥谷はアリーナを完全に掌握していた。場を完全に支配していたのだ。



 舞台袖で愛理達は、バニラホイップのステージを固唾を呑んで見ていた。やはり大統領アイドル。この国一番のアイドルグループだけのことはある。

 会場の熱気はアリスティーの時と互角で、勝負はどちらに転ぶか完全に分からなくなっていた。


 アリスティーが場を掌握し、あれだけのステージを作り上げたのに、バニラホイップはそれをものともせず、いとも簡単にひっくり返そうとしていた。


(なんて人なの……鳥谷さん、やはり貴方は凄いアイドルです)


 ステージのカーテン裾を掴みながら、愛理は感じ入っていた。


 そして、勢いのままラストナンバー。その曲は、やはりパラダイムであった。錦野が作り出した光のように輝くナンバー。




「愛理……」


 錦野が息を切らせながら、ステージ袖に来た。


「あかり……」

「ご免ね、愛理。パラダイムのこと……。アリスティーのための曲だったのに。私が大統領官邸で、弾き語りしているのを、鳥谷さんが聞いてしまって。それで……」


 驚くべきことに、鳥谷は偶然に錦野が弾き語りをしていたパラダイムを一回聴いただけで、自分の物にしてしまったのだ。完コピだ。恐るべきは、鳥谷の異能とさえ呼べる音楽家としての才能。


「ううん、いいの」


 全てを察したように、愛理は首を振る。


「だって、貴方がパラダイムと一緒にダリアを残してくれたから……あの曲がなければ、私達はバニラホイップにコテンパンにやられていたわ」

「でも、私……パラダイムをっ!」

「もういい。もういいよ、あかり。だって、親友の気持ちが分かるから。色々な人に色々な事を教わった今の私なら、分かるから」


 愛理はぎゅっと錦野を抱きしめる。

 錦野は抱かれ、静かに嗚咽を漏らした。


 そして、彼女作ったパラダイムの演奏が終わる。会場にはバニラホイップコールの嵐が台風かのように巻き上がる。


 鳥谷はステージで消耗し、息を切らしながら舞台袖に来る。そして、愛理に不敵な笑みを見せる。


「悪いけど、もらったわ」

「いいえ、鳥谷さん。勝つのはアリスティーとエレメンタリーズです」


 またも火花を散らす二人。

 そんな二人の間の挟まれた錦野は所在なげに佇んでいた。


「錦野先輩。そんな顔をしてないで、元気を出すのニャー」


 朋世が錦野に抱きつく。


「で、でも……私のせいでアリスティーを崖っぷちに立たせてしまった……」

「いいんですよ、錦野先輩。そのお陰っていうのもなんですが、ボク達成長できましたから。新曲『ダリア』も頂きましたし。今まで曲を作ってもらって感謝しています! 今のアリスティーがあるのも、錦野先輩のお陰です!」


 美砂がやって来て、頭を下げる。そこには、感謝の念が込められていた。


「美砂ちゃん……私、私……」


 錦野は涙した。

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