第29話 アイドル戦争

 ノックがして、メイドが紅茶とケーキスタンドを持って入室してきた。それらをセッテイングし、彼女は深々と頭を下げ退室する。


「飲みなよ」

「え。あ、はい」


 鳥谷に促され、愛理はティーカップを持つ。それと同時に、鳥谷との出会いの思い出を反芻するのも中断した。


「まずは知事選勝利おめでとう」


 鳥谷はカップを掲げる。


「ど、どうもです」

「さて。聞きたいことがあるんだ。どうして愛理達アリスティーは、この異世界にやって来たんだ?」

「そ、それは……秋葉原駅前のカフェに行って。そこのウェートレスさんから、この世界に飛ばされちゃって……馬鹿みたいな話なのですが、本当なんです」

「やっぱり、アリスティーもそうだったの」

「え?」

「いや、私も秋葉原のカフェからここに来たんだ。信じられない話だけど、あのウェートレスは次元を行き来出来る能力があるみたいだな」

「次元を行き来って……そんな馬鹿な」

「そんな馬鹿な能力が実際にあるから、私達はここにいる。私達がここにいることが、この現象の解となっている。皮肉にも、私達がここにいることこそが、超常現象の問いに対する証明となっているのさ。違う?」

「それはそうですけど……」


 愛理は口を尖らせつつも、私達が異世界にいることこそが、超常現象の解の証明になっている。なんだか、ちょっと哲学的でもあり、ある種の思考実験みたいだと感じていた。

 しかし、何も異世界の存在を証明するのに、私達が選ばれなくとも思う。


「あのウェートレスはこっちの世界にも行き来しているよ。自らをゲートキーパーと名乗っている」

「ゲートキーパー?」

「異世界への門番って意味でしょ。気取ってるよね」


 愛理は答えず、紅茶を啜った。


「なんでもここは5次元のパラレルワールドで、ゲートキーパーはその実験をしている研究機関の一員だとか。その正体は、ハーバード大学の物理教授とか、欧州原子核研究機構の研究員だとか言われてるけど、定かではないわ」

「あの。私達が異次元に来たってことは、元の世界に――日本に帰れる可能性もあるのでしょうか?」

「さぁ。でも、この国にも、その秋葉原と同じカフェがあるらしいわ。トレビック国支店ですって。笑っちゃうわよね。そこに例のウェートレスがいるかも。もし興味があるなら、探してみるといいわ」

「はぁ……」


 愛理はいまひとつ合点がいかず、眉根を寄せる。


「で、今日は何で来たの? 大統領官邸にまで押しかけて来たってことは、私に用があるからよね?」

「そ、そうです。鳥谷さん――いえ、鳥谷大統領。何故、フェラール国と戦争なんかしたんですか? お陰で、オーツ村は……村人達は……」

「あの。ちょっといいかな? フェラール国に戦争をしかせたのは、私じゃなくて、前大統領なんだけど。しかも、今は停戦中だし」

「そ、それはそうですけど。でも、いつまたフェラール国が停戦を破って、攻めてくるかも分からないじゃないですか? お願いです、大統領。戦争なんかしないで下さい! オーツ村みたいな悲劇はもう繰り返さないで!」

「そうは言ってもねぇ。降りかかる火の粉は払わなくちゃ。あっちが仕掛けてくるなら、応戦するまでよ」

「そしたらまた村が戦火で焼かれてしまう。お願いです、それだけは止めて下さい!」

「でもねぇ……」


 鳥谷は面倒くさそうに後ろ髪を掻いた。


「戦争だけは止めて下さい。最悪の事態になりそうだったら、大統領同士のアイドル戦争で決着をつければいいじゃないですか!」


 愛理の言う「アイドル戦争」とは、アイドル同士がライブで競うことである。その時の聴衆の支持が多い方が勝者となる。国の首脳同士のアイドル戦争に勝利すれば、負けたアイドルの国を無条件で自分の国に接収する事が出来るのだ。

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