3章 舞踏会

第22話 温泉回 1

 はぁと愛理は嘆息する。彼女はとっくに知っていた。この国の大統領が鳥谷望であったことを。

 大統領選のキャンペーン始まったのは、1ヶ月前のことである。

 そこから大統領候補は大いにメディアに露出することとなった。愛理はその時、魔道テレビで大統領候補である鳥谷望を見た。それもいやと言うほど。選挙キャンペーン中、鳥谷がメディアに露出しない時などなかった。


 その二週間後には大統領選挙が行われた。鳥谷望が率いるバニラホイップは見事勝利し、大統領となった。

 キャンペーン期間から僅か2週間後に本選挙が行われるのは、常識を鑑みれば、異様に短い期間であるが、この国はそのような慣例であるらしい。


 愛理は目の前に積まれた書類の山を横目で見つつ、もう一度溜息を吐く。

 県知事になっての仕事量の多さに忙殺され、あげく、かつてのライバルであった鳥谷が大統領になっていたという衝撃。その二つの事実に押しつぶされそうになっていた。


「失礼します」


 ノックの後、副知事が入ってくる。彼女はアリスティーファンクラブ003番である。つまり、古参のアリスティーのファンだ。


「お疲れのようですね? 知事になってから1ヶ月。まだお仕事に慣れませんか?」


 ファンクラブ003番のアリシアは、知事の机の上に紅茶を置いた。もっとも、異世界の紅茶なので、マドギアの葉という日本では聞いたこともない茶葉なのだが。


「うーん。まぁ、ねぇ……正直、誰かに仕事を代わってもらいたいわ」

「三日に一度は美砂さんか朋世さんに知事をしてもらっているではありませんか」


 アリシアは優雅な手つきで紅茶を淹れる。

 事実、彼女の指摘するとおり、アリスティーのメンバーは交代で知事をしている。なんとも出鱈目な方法のようであるが、この世界では一般的なことである。つまり、大統領をやっている鳥谷も、バニラホイップのメンバーと交代しながら大統領職をやっているのだ。


「お疲れでしたら、温泉にでも浸かってみたらどうですか?」


 温泉。疲労困憊でいる愛理にとってこの上なく魅惑的な言葉である。出来ることならそうしたい。


「けど、知事をやっていていたらのんびりと温泉なんかに浸かっている暇はないわ」

「いえ、それがですね」


 アリシアは眼鏡のブリッジを手にやり、愛理に迫ってくる。


「我がトレビック国と隣国フェラール王国が戦争状態なのは知ってますよね?」

「ええ。そりゃもう」

「戦争と言っても、本格的に発展している訳じゃありませんが。停戦したり、停戦を止めたら国境沿いの村で小競り合いをする程度ですが」

「それと温泉がどう関係あるの?」

「大ありなのですよ、それが。知事は国境沿いで戦地となったオーツ村の視察に行かれることになっていますよね?」


 愛理はスケジュール帳を捲る。たしかに、週末に視察に行くことになっている。


「オーツ村の隣のフンザン市が温泉地なのですよ。それでですね。知事の疲れを癒やしていただくため、フンザン市に一泊し、温泉を楽しまれたら如何かと思いまして。一日くらいのスケジュール調整はこのアリシアがなんとかします」


 愛理はうーんと唸る。


「それって公費で温泉地に泊まることよね? 職権乱用なんじゃ……」

「いえ、職権乱用なんかじゃありません。事実、フンザン山が噴火しそうなのです。その視察にも行ってもらいたいのです。そのついでに、フンザン山の麓の温泉宿で一泊すればよいでないですか」

「でもねぇ……」

「知事の頑張り、仕事ぶりは、このアリシアがしかと見ています。多少のご褒美があったところで罰は当たりません」


 尚も渋る愛理。

 温泉地に一泊するくらいの申し出、素直に受け取っておけばいいのだが、生真面目な彼女は納得いかぬようであった。

 結果、彼女はキッパリと拒否した。公費を使い温泉につかるなど、とんでもないとの結論であった。


 だが、週末。愛理達アリスティーのメンバーは、フンザン市の温泉宿にいた。


「どうしてこうなった……」


 愛理は温泉につかりながら、ボツリと呟く。彼女の雪のような白くきめ細かい肌が、湯で艶めかしく濡れている。


「そりゃあ、僕が知事当番の日にアリシアさんからの申し出を受けたからさ」


 美砂はちょっと上向きにバストをさらけ出していた。


「あ、朋世もアリシアさんから申し出されましたー。勿論、二つ返事でオーケーしたです」


 胸をタオルで隠しつつ、朋世はぶんぶんと手を振る。


 アリスティーのメンバーで多数決となり、あっさりと温泉地に一泊することが決まった。相も変わらず愛理だけは、この多数決の結果にぶちぶちと愚痴っていたのだが。


「でも、リーダー。温泉に来ちゃたんだ。いつまでも愚痴ってないでここは楽しまなきゃ」

「そうなのですよ。日本の政治家さんなんか、ゴルフに接待三昧なのですー。毎晩、赤坂の高級料亭に繰り出しているのニャ」


 いや、それはそうかもしれないけれど……と言いかけ、愛理は口を噤んだ。

 考えてみれば、異世界に来たこの三ヶ月間、アリスティーは全力で頑張ってきた。その点を踏まえると、たしかに、一日くらいはオフがあってもいいかもしれない。

 浮かぬ顔をしていた愛理の表情がようやく晴れる。


「えい」


 愛理は湯船に入ってきた美砂の顔にお湯をかける。手を合わせ、水鉄砲でお湯をかけたのだ。


「あ、やったなリーダー。お返しだ」


 美砂は大きく両手を広げ、お湯の飛沫を愛理に浴びせた。


「朋世も混ざるのニャ」


 朋世は勢いよく湯船の中に飛び込む。二人にお湯がかかった。

 きゃきゃと言いながら、三人はお湯を掛け合う。朋世の胸に巻いてあるタオルははだけ、胸がぶるるんと露わになった。彼女はベビーフェイスに似合わず巨乳であった。巨乳なのに垂れてもいなくて、実に形のいいおっぱいであった。

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