第19話 心からの声

 村役場に戻り、愛理は村長にアレス山の開発について、事細かに聞き出した。話を要約すると、こうである。


 アレス山から、銀鉱石が発見された。それを見て欲に目が眩んだコロネッツ姉妹が、山の木々をなぎ倒し、銀を探すため穴を掘り、無秩序に山を開拓した。

 しかし、今は銀を採りつくしていて、殆ど産出されていないとのことだった。


 そこで愛理は村長と協議し、今なお続いている銀の採掘――つまり、アレス山を開発すること止めることにした。銀が出ないのでは、採掘するのも無益なことである。


 愛理は、村長から、アレス山の開発中止の確約書を書いてもらった。そして、愛理自ら筆とり、森を伐採し、ハーピーの巣を壊したことに対する詫び状をしたためた。


 翌日、アリスティーの一同は、アレス山を登った。愛理は岩肌が見えている山の斜面まで来て、ライラに呼びかける。

 ライラは翼を羽ばたかせ、三人の前に降り立ってきた。そして、愛理から、アレス山開発中止の確約書と、愛理がしたためた詫び状を受け取った。彼女は愛理の誠意を感じ、これまでのことを水に流すことにした。今後、旅人を襲うのを止めることを確約をする。


「これで、アタシ達ハーピーと人間達は、一応、仲直りしたことになるな。で、お嬢ちゃん。これからどうするんだい?」


 ライラは問い掛ける。


「昨日、私が言ったとおり、これから歌を教えて頂けないでしょうか?」


 愛理の言葉に頷き「いいぜ」とライラは答えた。


「そんじゃ、早速、唄ってもらおうか。アンタ等の歌を聴かないことには、始まらないからな」


 ライラは挑発するような視線を愛理に向ける。


 愛理がミーシャ姉妹に合図をすると、彼女達は転移の呪文を唱え、楽器を瞬間移動させた。

 ミーシャがピアノを弾き、イントロを演奏する。ドラムはツービートのリズムを刻んだ。イントロが終わり、三人は歌い出す。今の自分が持てる精一杯を歌にした。


 歌い終え、息を弾ませる三人。いい感触で歌えたと、愛理は手応えを感じた。


「うん、いい歌詞だし、いい曲だ。けどねぇ……アンタ等の歌は、さっぱり心に響いてこなかったよ」


 ライラは辛辣な言葉を吐く。

 正面から批判され、愛理の目が眩み、頽れてしまった。いい感じで歌えたと思っていただけに、ショックは大きい。


「な、なんだよ?! いきなりケチをつけたりしてさ。これでも、ボク達は一生懸命唄ったのに! なにもそんな言い方をしなくってもいいだろ!」


 美砂は眉を吊り上げる。それに対し、ライラはフッと小馬鹿にしたような笑みを見せた。


「じゃあ、アタシが唄ってみるよ。――と、この曲はなんて言うんだい?」

「リーチザスターだよ」


 美砂は脹れっ面のまま、ライラの問いに答える。


 それを聞いてから、ライラは口を開く。演奏なしのアカペラで、リーチザスターを歌い上げた。

 それは本物だった。ライラが紡ぎ出す歌は、アリスティーのものとは次元が違っていた。あまりの美しい歌声に、愛理の瞳がうるっとした。自然と涙が溢れ、頬を濡らした。


(やだ、私ったら。歌を聴いただけで、涙を流しちゃうなんて……でも……)

 愛理はそう思いながら、服の袖で涙を拭う。


 アリスティーのメンバーはただただ感激していた。ライラが紡ぎ出す歌に。感動し、心を揺さぶられていたのだ。

 ライラの歌が終わり、愛理は素直に拍手した。いや、愛理だけではなく、美砂も朋世も、ミーシャ姉妹までも手を叩いていた。

 拍手喝采されても、ライラの表情が緩むことはない。むしろ、厳しい視線を美砂に向ける。


「歌ってさ。どこで歌うと思う?」

「どこって……いきなり言われてもなぁ……」


 美砂は答えられず、後ろ髪をかいた。


「ここだよ、ここ」


 ライラは自らの胸の辺りをドンと叩いた。


「あっ、分かった。お腹ですよね。よく、お腹から声を出すように指導されていましたし」


 愛理は自分なりの答えを口にする。


「違う。全然違うって。歌っていうのはね……」

 ライラはそこで一拍置き、言葉を継ぐ。

「魂で唄うんだよ。魂の叫びが歌なのさ。魂を込めて唄うからこそ、その歌声に人は感動するんだよ」


 愛理はよく分からないといった表情をし、尋ねる。

「それって感情を込めて唄えってことですか?」


 ライラは大袈裟に羽根を振りかざし、「違う違う」と言った。


「うーん……アンタ等人間は魂だなんて言われてもピンとこないか……」


 ライラはそこで、どう伝えれば分かってくれるのだろうかと思案する。それから暫く間を置き、唇を動かした。


「魂で分からなければ、心だ。心の底からの言葉を歌にしていくんだ。分かるか?」


 愛理はまだライラの言葉をよく噛み砕けなかった。だが、彼女の隣にいる朋世はポンと手を叩く。


「心の叫びニャー。唄うってことは、心の叫びなのニャー」

「うん、何となくボクも分かったよ。心の声を歌にしていけばいいんだね」


 美砂は頷く。


「うん、そうだ。大体、分かってもらえたみたいだね」


 ライラは優しげな視線をアリスティーのメンバーに向け、「愛理、もう一度唄ってみなよ。今度は心の底から。ね?」と、口にした。


「歌は魂の叫び。心の中からの声……」


 愛理はぼそっと呟いてみる。


(そうか、分かったわ。心の底から唄うからこそ、人はその歌声に感動するんだ!)

 愛理は思いつき、力強く頷いた。


 そして、「皆、もう一度唄おう。今度は、心のかぎりに」と力強く言葉にする。その言葉に、美砂と朋世は首肯する。それからもう一度、アリスティーは歌い出した。心のかぎりに。

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