第15話 天才作曲家はストーカー

 三人はマリーの店のテラス席に陣取り、話し始める。最初に言葉を発したのは、美砂であった。


「んな事言ったてさ、リーダー。この異世界に錦野さんはいないんだから、しょうがないじゃないか」

「まぁ、そうなんだけど……」


 口を尖らせる愛理。


「とにかくさ。今回の曲は、スマホに音源を録音して再生するなんてのは駄目だよ。スローバラードなんだからさ。生演奏じゃなきゃ、折角の曲が生きてこないよ」

「確かにそうよね……特に、相手は凄いステージパフォーマンスをするんだから、こっちは曲と歌で圧倒しないと。それには、バックバンドなしなんて考えられないわ……」


 愛理は嘆息する。やはり、バックバンドなしでは、今回は厳しい。


「だとしても、どうやって、バンドメンバーを集めたらいいのかしら?」


 愛理は嘆いた。


「やっぱ、親衛隊に声をかけてみるのがいいんじゃないかな?」

「やっぱり、そうなるわよね……」


 愛理はテーブルの上にパッタリと突っ伏す。と、そこでテーブルに活けてある緑色の花に目がとまった。簡素で細い花瓶に一輪挿しで活けてある。


「この花綺麗。ダリアにそっくりだけれど、やけに小ぶりだし……それに色も緑で、こんなダリア見たいこともないわ」

「リーダー、それはダリアじゃなくて、リアダというトラサル県にしか咲かない花だよ。カティアさんの小麦畑の近くにリアダの花畑があるんだ」


 美砂は説明する。


「へぇ。この花、リアダっていうんだ」


 愛理は愛おしそうに緑色した小さな花を見詰めた。そして、ダリアの花言葉は「裏切り」であるということをぼんやりと思い出していた。

 その脇で、美砂はマリーにオーダーを頼むため、店内に入っていった。


「確かに、誰が楽器を弾くか大事なのですが、そうでニャくてですね」

「何よ、朋世? バンドメンバーの他に、まだ何か問題があるの?」

「ムムム。感じるニャー。ねっとりと絡み付くような視線を感じるですニャー」


 朋世はくわっと目を見開いた。


「それはアレじゃない。親衛隊の誰かじゃないの?」


 愛理が言うように、親衛隊の面々は、早速、マリーの店のテラスに陣取っていた。さすがに慣れっこになっていたので、彼女は特に気にすることもなかった。


「ねぇ、リーダー。何か視線を感じないかい? こうねっとりと絡み付くような」


 オーダーを終え、戻って来た美砂が出し抜けに口にする。


「え、美砂まで視線を感じるの? 嫌だ。本当にストーカーかしら?」


 愛理はブルッと身を震わせた。


「ムッ、12時の方向に怪しげな人影を発見ニャ。いくのです、カッシーナ」


 朋世が叫ぶと、セントバーナードのカッシーナがバウバウと吠え、駆け出して行った。

 愛理は何事かと目を白黒させていると、道の先から「ひゃああん。助けて下さいなのですー」という声が聞こえてきた。どうやら、カッシーナがストーカーとおぼしき人物を捕らえたらしい。


 少しして、カッシーナは口に服の袖を咥え、のっしのっしと歩いて戻って来た。服をガッチリと咥えられ、一人の少女がずるずると引きずられてくる。


「ひゃああん。助けてなのです。ミーシャは悪くないのですー。ちょっとアリスティーの皆さんを見ていただけなのですー。ストーカー行為なんかしていなのですよー」


 カッシーナに服の袖を咥えら少女は、朋世と同じくらいの15歳くらいに見えた。それと、彼女にはハッキリとした特徴があった。耳がとんがっていたのだ。この尖った耳は、エルフの特徴である。

 この異世界において、エルフの存在はさほど珍しいものではなかった。同様に、精霊の存在も珍しくない。したがって、エレメンタリーズなる精霊の少女が、アイドルをやっていようが、知事であろうが、さして不思議なことではなかった。


「あら、可愛らしいエルフさん。今日は、エルフさん」


 愛理はにっこりと微笑む。

 彼女の言葉通り、ストーカー行為を働いていたエルフは実に可愛らしい顔をしていた。ちょっとだけ垂れ目なところがチャームポイントで、少しだけあるそばかすも実に愛らしかった。


「ど、どどどどどどうも今日はです。はわわー」


 愛理に声を掛けられ、エルフは思わずどもってしまう。


「君、ちょっと。ストーカー行為はあまり感心できないな」


 美砂はちょっと膨れっ面をする。


「あわわわわわ。ミーシャはストーカー行為なんかしていないのですーーー。カティアさんの家で、素敵なバラードを完成させたばかりであることなど、ミーシャは知らないのですよーー!」


 その言葉を聞き、愛理はバッタリとテーブルの上に突っ伏す。このミーシャとかいうエルフは、ちゃっかりとカティアの家で作曲した新曲を、その長い耳をそばだて、盗み聞きしていたのだ。

 こりゃ立派なストーカーだわと、愛理はある意味感心する。


「朋世は何となく、このストーカーさんにシンパシーが湧いたニャ。ささ、どうぞ座るといいのですニャ」


 朋世はセントバーナードのカッシーナに目配せした。

 カッシーナは朋世の心うちを読み取ったらしく、咥えていたエルフの服の袖から口を離す。

 身が自由になったエルフッ娘は、愛理達が座るテーブル席にちょこんと腰をかけた。


「――で。ストーカーさんの名前はなんて言うんだい?」


 美砂は呆れつつ、エルフに視線を向ける。


「みみみみ、ミーシャはミーシャといいます。皆様、よろしくなのですー」


 どうやらこのエルフ、ミーシャという名であるらしい。


 ちなみに、ミーシャは美砂推しであった。ボクッ娘の美砂の少し男っぽい口調や、ボーイシュな髪型。端正でありながらも、とても愛らしい顔。その全てがどストライクだった。美砂おねぇ様になら、全て(処女)を捧げてもよいと思っていた。

 挨拶をし、ミーシャがやや縮こまっていると、そこに親衛隊のアンドレが通りかかった。


「やや。これは麗しのアリスティー一同様。どうも今日はでござるよ」


 美砂は「どうも」とボソリと挨拶し、軽く手を上げ応える。その様はちょっとニヒルで、男前であった。女の子だけど。

 その仕草を見て、ミーシャはますますのぼせ上がる。やはり、美砂に全てを捧げるしかないと、改めて感じ入っていた。


 美砂はぞわりとした感覚がして、腕に鳥肌が立つ。彼女は、なんで鳥肌が立ったのか不思議でならなかった。

 まぁ、その原因を作っているエルフッ娘が目の前にいる訳だが。


「我が村イチの作曲家と、アリスティーのコラボでござるか。実に感慨深いでござるよ」


 アンドレは感激しきりといった様子であった。


「ちょ、ちょっと待って。誰が村一番の作曲家だって?」


 美砂が目を丸くする。


「いや、目の前にいるミーシャちゃんでござるよ。彼女が作る曲は、どれも神曲でござる。ボーカロイド『つねはクミ』を用いて曲を作り、魔道ネットの動画サイトにあげた曲は、どれも100万ヒット以上しているでござるよ」

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