2章 県知事フェス

第11話 敵情視察

 村長選挙フェスから1ヶ月経過したが、アリスティーの面々は忙しかった。村役場で愛理が村長をやり、美砂と朋世がマリーの店に行っている。

 日々、仕事に忙殺され、歌うどころではない。


 これではライブがサッパリ出来ないと愛理は思い立ち、市長選挙フェスに立候補した。

 結果、アリスティーが対立候補アイドルに2倍もの得票差をつけ、市長となった。


 一緒に仕事してきた信頼出来る副村長を村長に指名し、愛理自らは市長になった。付け加えるまでもないが、村長を辞する際、コロネッツを再び村長には指名しなかった。


 市長の椅子に座り、愛理は目を瞑る。ついこの前行われた、市長選挙フェスのことを思い浮かべてた。

 フェスは市民運動場で行われ、2000人もの観客を呼んだ。村長選挙フェスの実に4倍の人数である。


 あまりのオーディエンスの数に、ステージに立つ愛理や美砂の膝は震えたが、それでも曲が始まると、自然と震えは止まり、本来のパフォーマンスを発揮出来た。

 ステージ上でのアリスティーの歌声と躍動、2000人もの圧倒的歓声。今思い出しても、震えが来る。


 愛理が思い出に浸っていると、ドアをノックする音が聞こえてきたので、「どうぞ」と返す。


「こんにちはニャー」


 朋世がいつものようにニコニコ笑顔で、入室して来る。


「相談があるって、一体何の用だい、リーダー」


 朋世に次いで、美砂も市長室に入る。朋世も美砂も仕事休みの日だった。


 愛理は喋り出す前に、グルリと肩を一回転させた。机の上に山と積まれている書類。デスクワークが多すぎて、肩が凝っていた。


「でも、市長なんて、何だか格好よさそうだよな。ボクがやってみてもいいかなぁ」

「美砂が買って出るなら、喜んで。意外に大変なんだから」


 愛理は高校で、生徒会長をやっていた。その経験を生かし、なんとか政務もやっていけているのだ。もっとも、政治に明るい副市長の献身的なサポートがあるお陰で、どうにかこなしていけているのだが。


「ふーん。どれどれ」


 美砂は大量の書類の中から、一枚取ってみた。そこには数字が羅列しており、グラフも所狭しとあった。


「それはこの市の概算要求。市役所だって、ボランティアでやっている訳じゃないの。職員や市の事業にお金を出さなきゃいけないの。分かる?」


 美砂はブンブンと首を振る。これはとても自分の手に負えるものではないと悟ったようだ。


 ノイック村の隣に位置するカザック市。それだけで、概算要求の書類は20枚。それに加え、要望書や事業計画書。数え上げていけばキリがない。

 プラスして、カザック市の仕事。税務課、財政課、総務課、政策課、土木課、健康福祉課、農林課、観光課とある。それらの課の意見を調整、企画立案、見直していくのだ。


 正直、生徒会の仕事なんて比じゃないほどの仕事が大盛りにあり、手ぐすね引いて愛理を待っていた。やはり、有能な副市長がいなかったら、とても市長の仕事など出来なかっただろう。


「はぁ……市長って大変なんだな……」

 美砂はぼやき、「まぁ、ボクはマリー姉さんが好きだし、パン屋の店員さんが一番合っているのかもね」と付け加えた。


「で、愛理先輩。相談ってなんですかニャ?」


 朋世は尋ねる。


「うん……そのことなんだけど……」


 愛理はそこで一泊置き、息を吸い込む。

 そして、「県知事選挙フェスに出てみる?」と、美砂と朋世を伺うような視線を送った。


 美砂はそれを聞き、吹きだした。


「ちょ……リーダー。ついこの間、市長になったばかりだって言うのに、今度は県知事選挙フェスだって?」

「それはちょっと早急な気がするニャ」


 美砂も朋世も困惑した表情を見せる。


「うーん……やっぱり、皆、そう思う? 私も正直、市長の仕事が目一杯で、知事選なんか、まだ時期尚早だと思うのだけれど」

「そうだぜ、リーダー。時期尚早だ」


 美砂はうんうんと頷く。


「けれどねぇ……この前、県知事にお会いして。その時にね、『次回の知事選のフェスにアンタ達も出なさいよね』って言われちゃって」

「フムフムですニャ」

「知事が挑発的に『知事選に出なさいよね』って言ったのよ?! そんな風に言われたら、ちょっとしゃくじゃない」

「うーん……これでもし、知事選フェスに参加しなかったら、アリスティーは知事アイドルの実力に恐れをなし、逃げたって取られかねないよなぁ……」


 美砂は眉根を寄せ、少しだけ考え、「よし、出よう! 知事選フェスに出演だ!」と力強く宣言した。


「ちょっと待って、美砂。私も挑発的言われて、思う所はあるわ。いっそ、知事選に参加しようかと思ったのだけど……」


 愛理は机の引き出しを開け、そこから一枚のチラシを取り出す。


「これはなんですかニャ? 愛理先輩?」


 朋世は何気なくチラシを手に取った。それはライブの宣伝チラシであった。


「エレメンタリーズ ハピネスライブですかニャー」


 朋世の手からチラシを取り、フムフムと眺める美砂。そして、「うッ!」と、唸った。


「エレメンタリーズって、今、知事をやっているアイドルユニットの名前じゃないか!? おまけに、トラサル県民スタジアムが会場だって!?」


 美砂は目を丸くした。彼女が驚くのも無理はない。トラサル県民スタジアムのキャパが大きいからだ。満員になれば、2万人は収容出来るだろう。


「まぁ、知事選のフェスは置いておいて、取り敢えずエレメンタリーズのライブを見ようと思っているの。ほら、言うじゃない。『敵を知れば、百戦危うからず』ってね」


 愛理の言葉に、「なるほどね」と頷く美砂。

 朋世も「それは名案なのですニャ」と手を叩いた。


「じゃあ、まずはライブを見に行くってことで決まりね。チケットは3枚分用意してあるし」


 愛理は引き出しの中から3枚分のライブチケットを取り出す。それは最前列のプラチナチケットであった。


「よっし! 敵情視察って訳だね、リーダー!」


 美砂は拳を宙に突き出す。


「勿論、それも目的だけど、相手のいい所も吸収していかなくっちゃね。それだけのキャパを満員にするのだから、エレメンタリーズのライブは、私達にとっても大いに勉強になるはずよ」


 愛理はニコリと笑った。

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