第9話 村長選挙フェス

 轟音が天に轟く。収穫祭を祝う花火が派手な音を立て、宙で炸裂した。いよいよ選挙フェスの日がやって来たのだ。


 花火の音に愛理は飛び起きた。眠い目を擦り、ベッドから降りた。


 大事な日なのに、愛理の頭にはまだ靄がかかっていた。それは無理もない話であった。昨夜は夜が明けるまで、カティアのオーディオで、アリスティーの楽曲を何回も鳴らし、声が枯れるまで歌い明かしたのだ。


 しかし、愛理には一つ心配事があった。それはステージ衣装だ。

 ステージ衣装は、会計する時に床に置き、あのシアトル系のカフェに置き去りしてきてしまったのだ。


「ステージ衣装はセーラー服で勝負すればいいのですニャ。逆にその方が萌えるにゃ」


 その朋世の一言でアッサリと解決した。ステージ衣装はセーラー服にすることにした。この異世界では、その方が逆に新鮮かつ目立つからだ。


 アリスティーの面々はカティアの家を出て村の広場に着く。そこには、あの高慢ちきなコロネッツの姉妹ユニットが待ち構えていた。


「ふふん。わざわざ負けに来たのですか? この異邦人め」

「負けて地べたに這いつくばるのは、貴方達の方よ」


 愛理とコロネッツ姉との視線が宙で激突し、火花を散らした。


「コロネッツさん。マイクテストをお願いします」


 PAと覚しき男性が、姉に声を掛ける。


「フッ。まぁ、わたくし達の歌を聴いて、戦慄するがいいわ。そして、負け犬のように尻尾を巻いて、この村から出て行くことね」

「そうよそうよ。おねぇ様の言うとおりだわ」


 コロネッツ妹はベーと舌を出し、ステージに向かった。


 トクンと胸が高鳴る。愛理の胸の鼓動は早まっていた。


 ステージを見据え、美砂の身体が震えた。それは武者震いであった。


 美砂の隣にいる朋世は、あっけらかんとしていた。これからステージに上がり、コロネッツと村長選挙を繰り広げような緊張感など彼女からは、感じられなかった。いつも天然、自然体。それが朋世なのだ。


「さて、と。ボク達のステージは何番目なのかな?」


 緊張を解すように、選挙のチラシに目を通す美砂。そこで、彼女は目を疑った。なんと、村長選の参加者は二組だけであった。事実上、アリスティーとコロネッツの対バンのフェスに等しかった。


 実のところ、参加希望アイドルは他にもいた。しかし、そのアイドル達はこぞって出場を辞退したのだ。コロネッツ姉妹の残虐で陰険な性格と、傍若無人な独裁者っぷりに恐れなし、選挙に参加しなかったのだ。



 愛理は音響係にスマホを渡し、操作方法を教えた。魔道タブレットと操作方法は、殆ど一緒なので、音響係はすぐに把握した。


「それじゃ、このスマホとやらをミキサーに繋げれば、楽曲の音が出る訳ですね?」

「その通りです。それじゃあ、よろしくお願いします」


 愛理はステージ袖から階段を降り、美砂達がいる場所に向かった。


 ちなみにであるが、この世界にも電気がある。

 この世界の各家庭に、自家発電機が備え付けられている。だから、愛理はスマホの充電も出来たのだ。

 曇りや雨の日に、雷を呼び起こす呪文を唱え、避雷針に雷を落とし、その電流を蓄電池に貯め、発電機を稼働させ、電気を供給するシステムらしい。

 何とも出鱈目な電力システムだが、この異世界ならばあり得なくない話でもない。



 歩いていると、広場にいるおじさんの会話が彼女の耳に入ってきた。


「アンタ、どっちに投票するんだい?」

「んー、やっぱりコロネッツかなぁ……黒髪の余所者なんかが村長になるのは嫌だし」

「でもさ……コロネッツに投票した場合、今迄通り、オレ達に重税がかけられるんだぜ。あの姉妹はオレ達平民なんか、虫けらの様に思ってるしな」

「でも、やっぱりそうだとしてもなぁ……異邦人の村長なんかゾッとしないでもないぜ」

「ちげぇねぇ。でも、重税でオレ達平民から搾取されるのも勘弁だよなぁ。コロネッツ姉妹は冷酷で残忍でねちっこい。嫌な奴等だよ、まったく」

「こうなりゃ、選挙、棄権するか?」

「まぁ、それもありかな」


 愛理はおじさん達の会話を聞いて、物悲しくなった。姉妹の性格だったり、異邦人であるかなどではなく、ちゃんと自分達の歌を聴いて欲しいと切に感じていた。彼女は悲しい思いを胸に秘め、美砂と朋世がいる場所へと戻った。


 すると、真っ赤な血の色の様なドレスを着たコロネッツが、ステージの中央に立った。


「ほーほほほ。愚民共。ご機嫌はいかが?」

「まぁ、アンタ等、平民共の機嫌なんかどうでもいいんだけどね。アンタ等は、せっせと税金を納め、わたくし達姉妹を潤してくれればいいのよ」


 普通なら、こんなMCをしたら、ブーイング必死である。それでも、広場にいる400名ほどの村民は、水を打ったように静かだった。ここでブーイングなどしたら、あの陰険な姉妹から、後でどんな仕打ちをされるか分かったものではないのだから。


「それと、アリスティーとかいう無謀な挑戦者。聞いてる? 今から、アンタ達をコテンパンにしてさしあげますから」

「そうだよねー、おねぇ様。やい、アリスティー。私達コロネッツの美声を聞いて、精々震えなさい」


 自信満々のコロネッツ妹の言い分に、愛理は少し怯んだ。これだけ彼女達は自信があるのだから、きっと美しい歌声であり、十分な実力を兼ね備えているのだろうと想像した。




(ひょっとして、無謀な挑戦だったの?)と、感じる愛理。

 あっさりと敗北し、コロネッツの前でひざまづくアリスティーのイメージが、彼女の頭の中に浮かんできた。

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