第8話 ワキワキペディア

 それを見た愛理達は驚愕し、腰を抜かしそうになった。液晶ディスプレーも無線もバッテリーも内蔵されていないただのガラス板の上にくっきりと文字と写真が写っている。


 魔法を唱え、精霊の力を借り、あらゆる情報を共有する魔法ネットに接続するといった仕組みだとアンドレに説明されたが、それでも愛理には合点がいかなかった。出鱈目な技術にも程がある。


 愛理はタブレットを手にし、アイドルについて検索してみることにした。


 検索アプリの「ググる」を立ち上げ、「アイドル」と入力する。検索候補にワキワキペディアの「アイドル」というリンクがあったので、タップしてみる。


 リンク先を見ると、こんなことが書かれていた。


「アイドル」の項目。


 アイドルとは絶対権力者である。その人気が高ければ高いほど、高い地位に就ける。

 村長選、市長選、県知事選、大統領選は、年に一度開かれる選挙にて決定される。選挙とは、即ち、アイドル達が集うフェスのことである。

 このフェスの模様は、魔道ネットを通して生中継される。そこで、ライブ会場入る人、魔道ネットを視聴している人が、気に入ったアイドルに一票を投じる。

 人気投票は、一般的には魔道ネットで行われ、リアルタイムに開票されていく。


 村長選、市長選、県知事選が行われる時期や、開催場所はその自治体に委ねられており、統一されていない。よって、選挙フェスが開催される地方によっては、ユニークなフェスや、投票箱による方法が採用される場合もある。

 しかし、大統領選だけは、首都・フェラガモにあるフェラガモ・アリーナで開催されるが決まっている。


 もし、国同士が戦争になった場合は、その国の大統領同士によるアイドル対決フェスが開かれる。そこで勝利した大統領は、敗戦国となった国を丸ごと接収することができる。


 ――といったことが、魔道タブレットの画面に記されていた。

 愛理は記事を読んで、口をパクパクさせる。この異世界では、人気があるアイドルはてっぺんどころか、王様――というか、大統領にすらなれるのだ。


「どうしたんだい、リーダー? 呆けた顔しちゃってさ」


 問い掛けてきた美砂にタブレットを渡す愛理。美砂は記事を読み終え、愛理同様にあわあわとした。

 美砂が記事を読み終えた頃、愛理はすっかり落ち着きを取り戻す。彼女の瞳には、闘志の炎が燃え盛っていた。


「取るわよ、てっぺんを。取り敢えず、村長選挙に出馬して、あのコロネッツを倒してギャフンと言わせてやるわ!」

「な、なんだい、リーダー。出し抜けに」

「日本で、アリスティーはスターになれなかった! けど、ここでならなれるかもしれない。スターに!」

 愛理は拳を突き上げ、「てっぺんに手が届くかもしれない!」と、声を大にして叫んだ。


「おお! 愛理様はアイドルであったでござるか? ならば、拙者も応援せねばならないでござるな!」


 アンドレはグッと拳を握りしめる。


「ねぇ、アンドレ。その村長選挙フェスって、いつ行われるのさ?」

「明日でござるよ、美砂っち。この村の収穫祭で、選挙フェスが行われるのでござるよ」

「えっ?! 明日? いくらなんでも、早すぎるよ」


 美砂はちょっとだけ弱腰になってしまった。


 そこに、愛理が歩み寄ってきて、彼女の肩を掴む。


「なに言ってるのよ、美砂。私達は努力してきたじゃない。ボイストレーニングで喉がやられても、ダンストレーニングでへばっても、常に頑張ってきたじゃない!」

「うん……まぁ、そうだけど……」

「私達アリスティーは、常在戦場の心意気でやって来たじゃない! 村長選挙フェスを目の前にして今更怖じ気づくの、美砂?」


 愛理は挑発するように言葉を発する。美砂は少しだけ考えてから、力強く頷いた。


「そうだね、リーダー! こうなったら、意を決して、選挙フェスに望むよ。アリスティーは決して負けない!」


 美砂は力強く手をかざした。


「そうなのです。アリスティーの実力はありありですニャ」


 朋世が美砂の手の上に、自らの手を重ねる。愛理も手を重ねた。


 愛理は不敵に微笑み、「ゴー アリスティー! ゴー!」と高らかに宣言した。

 その後ろで、アンドレは涙しながら手を叩き、マリーはうんうんと頷いていた。



 早速、三人とアンドレはカティアの家に戻り、歌の練習をすることにした。

 カティアのオーディオがあった。スピーカーは蓄音機のようなラッパ型であり、なかなかアバンギャルドな形状。

 アンプにはピンプラグが付いていたのだが、妙な形状をしていて、愛理の手持ちのオーディオコードでは繋ぐことが出来なかった。


 しかし、アンドレが、機械に明るかったのが幸いした。彼は自宅まで戻り、一時間後には、この異世界のコードの形状に合うお手製の接続アダプターを自作し、戻って来た。


 愛理が恐る恐るスマホのヘッドホン端子に接続したオーディオコードをアンプに繋げると、アリスティーのボーカル抜きの演奏曲が無事に鳴った。

 三人はお互いに頷き、楽曲に合わせ歌い出した。


 初めて聞くアリスティーの歌声に、アンドレの全身が粟立った。彼は彼女達の歌声に度肝を抜かれ、すっかり魅了されていた。

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