第6話 横暴な村長

 翌朝、日の出前に目覚める愛理。隣で寝ている美砂を起こし、朋世の部屋へ行く。ノックすると、朋世は起きていたらしく、すぐに出てきた。三人は授業が始まる前から、早朝訓練をしていたので、早起きするのが不得手ではなかった。


 一階に降り、皆で朝食を取った。


 朝食を食べ終え、食器を片付けた三人は、カティアに「行ってきます」と挨拶をし、マリーの店へと向かった。

 カティアは三人を見送った後、自分の小麦畑へ向った。


 マリーのパン屋に着いてから、三人はてんてこ舞いだった。マリーから、パン生地を伸ばす方法をレクチャーされ、その後でパンをこねた。

 その作業は、意外とコツがいり、慣れない愛理達にとって、重労働。


 それが終わってから、トレーの上に形作られたパンを置いていき、石焼き釜に火を入れる。

 パンを作る過程において重要なのは、火加減と「何分熱するか」のタイミングである。


 愛理が石焼き釜からパンを取り出すと、真っ黒焦げになっていた。彼女が初めて作ったはとんだ失敗作。

 それでもマリーは怒ることもなく、もう一度、一から丹念に、パンの焼き方を教えた。


 クロワッサン、バゲッド、揚げパン、ピザパン、それにカレーパン。様々なパンをようやく作り終え、愛理達はホッと一息ついた。これまでの作業に、3時間ほどかかっている。


 店は朝8時に開いた。店内には、芳ばしい焼きたてパンの匂いが漂っていた。


「いらっしゃいませー」


 お客さんが来ると、愛理は愛想良く挨拶をする。

 お客は愛理を物珍しそうに眺めつつ、パンを買っていった。やはり、この土地では、黒髪、黒い瞳は珍しい存在であったのだ。


 奇異な目で愛理を見るお客さんが多かったが、そういったお客さんの中で、アンドレという青年が愛理に一目惚れをした。

 彼女の凛とした瞳と、整った顔立ち、綺麗で艶のあるロングヘアにやられてしまったようだ。


 物珍しい黒髪が、彼女をより一層引き立たせ、神秘的に見せていた。やはり、美の基準というのは、世界共通のものがあり、愛理の麗しいルックスは、この土地でも受け入れられたようだった。


 お昼も過ぎた頃、上質な赤いドレスを着た二人の女性客が入店してきた。ハイヒールで木の床を鳴らし、店内をうろつく。


「フン。相変わらずボロいお店ですわね」

「そうですね、おねぇ様。――たく、こんな店、税金を倍にしてやろうかしら」


 ドレスの女は毒づく。


(一体、マリーさんのお店になんの不満があるっていうのよ?!)と愛理は憤った。

 床はモップがけをしているし、窓だってピカピカに磨いている。こんな清潔なお店はないと自負していたのだ。


 クレーマーの類いなのだろうかと考え、愛理の頭は沸騰しそうになっていた。


 ドレスの女は、商品棚にあるチョココロネを鷲掴みにし、一口だけ食べ、それを床に落とす。もう一人は、コロッケパンを頬張ってから、ペッと床に吐き出した。


「ああ、不味い。とても食えた物ではありませんわ」

「そうですね、おねぇ様。やっぱり、こんなパンを出すお店なんか、厳罰よ」


 ドレスの女は尚も毒づく。


 フロアにいた美砂は、その傍若無人な振る舞いに耐えかね怒鳴った。


「マリーさんが苦労して焼いたパンが不味いだって?! なんてことを言うんだ、アンタ達は!」


 美砂はドレスの女を指差し、飛びかからんばかりの勢いで近寄った。彼女は義憤にかられていた。


「フン。不味いものを不味いと言って何が悪いんですの?」

「また言ったな。もう許さないぞ、コイツ」


 美砂が怒鳴りながら近寄ると、ドレスの女は手を伸ばす。触れられてもいないのに、美砂は肩が押されるような感覚がし、よろめいた。ドレスの女は、魔法を使ったのだ。


「おもしろい。やるのか、コイツ?!」


 美砂が殴りかかろうとする。そこにマリーが割って入った。


「ちょっと。美砂ちゃん、ストップストップ」

「どうして止めるんだ、マリーさん。ボクはマリー姉さんが精魂を込めて作ったパンをバカにしたコイツらを許せないんだ!」

「美砂っち先輩。暴力は駄目ですニャ」


 朋世も美砂を引き留める。

 まだ店内に居残っていたアリスティー大好き青年アンドレも仲裁に入る。

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