第142話 やめてあげないんだから
溜まりきらなくなった涙がポロリと零れてモニカさんの頬に一筋の尾を引いた。
「クリス……いえ、ルイーゼさん、貴女、私のこと許せるの? あんなに酷いことをした私のことを……」
全てを思い出したわけではない。未だに
「もしこの先さらにモニカさんの悪行を思い出したとしても、今のモニカさんのことをちゃんと分かってるもの。他の人は兎も角少なくとも私は許せるわ。思い出して一瞬ムカッとするのは許してね」
「そんなの……! あんなに嫌がらせしたのに貴女って本当にお人好し」
あんなにって、どんなにだろう……。全て思い出すのが滅茶苦茶怖くなってきた。でも、うん、きっと大丈夫。今のモニカさんが誠実で明るくて周りの人を元気にする女の子だって分かってるから。
「あとから後悔しても知らないんだから……! 貴女が全部思い出したって、とっ、友だちをやめてなんてあげないんだからね!」
そう言ってモニカさんが少し恥ずかしそうに顔を逸らす。そのあと私の方を向いて真剣な表情を浮かべると深々と頭を下げた。
「ルイーゼさん。改めて謝罪させてください。ずっと直接謝りたいと思ってたの。貴女に対する数々の嫌がらせや、傷つけてしまったこと、本当にごめんなさい。貴女がどんなに優しく許してくれても本当は謝って許されるようなことじゃないのは分かってる。どんな罰でも受け入れるつもり」
そこまで話したあと、モニカさんはアルフォンスさまの方を向いて再び頭を下げて言葉を続けた。
「アルフォンス殿下、ルイーゼさんだけでなく殿下のことも傷つけてしまって申し訳ございませんでした。オスカーさまにも他の皆さまにもご迷惑をおかけしました。どのような罰でもお受けいたします」
深々と頭を下げているモニカさんの表情は見えない。けれどモニカさんの声は震えながらもまるで覚悟を決めたと言わんばかりに落ち着いていて。
そんなモニカさんを終始見ていたアルフォンスさまが大きな溜息を吐いた。
「はあ……。もとからここで君を斬るつもりなんてなかったよ。ルイーゼが世話になった屋敷を血で汚す訳にはいかないしね。……今のモニカ嬢の言葉、恐らく本心なのだろう。ルイーゼの気持ちに免じて私個人としては君を許そうと思う。事件が明るみに出ればそうもいかなくなるが……」
「あのときのお約束は肝に銘じております。事件のことは決して口外いたしません」
モニカさんの言葉を聞いてアルフォンスさまが小さく頷く。
「事件のことを口外しようとしたり、王家や侯爵家に害をなす言動をしないこと――魔法契約書の内容は覚えているようだね。命が惜しいならばゆめゆめ忘れることのないように。許すとは言っても今後も君から目を離すことはないからね」
「承知いたしました。寛大なお言葉をありがとうございます」
ずっと頭を下げたまま動かないモニカさんになんと声をかけようかとついオロオロとしてしまう。そんな私を見てアルフォンスさまがモニカさんに頭を上げるよう伝え、私に向かって苦笑した。
「ルイーゼ、心配しなくていいよ。君とモニカ嬢はこれまで通りにするといい。モニカ嬢も転生者である以上危険な立場にあるんだ」
アルフォンスさまの言葉を聞いて首を傾げるモニカさんに、私がこの国に連れてこられた理由を説明した。事情を聞いたモニカさんが少しだけ俯いて何かを考え込んでいる。
「転生者が……。クリスが転生者だっていうのは聞いていたけど学園にいたときにはルイーゼさんが転生者だなんて思いもしなかったわ。ということはユリアさんも危険ということ?」
「そういうことになるね。先日王宮でユリアという少女に鉢合わせたときに彼女も転生者だと察した。君たちが転生者……前世の知識というものを持っていることは、他の者に徹底的に隠し通さなければならない。少なくともユリア嬢が転生者であることは恐らく敵に勘付かれてしまっただろうが……」
「敵……。それがフェルディナント皇太子殿下の派閥のシュレマー公爵ということなのですね。もしかして……」
モニカさんが何かに気付いたように顔を上げた。
「アルフォンス殿下、ルイーゼさん、今日私が来たのはユリアさんのことをお話しするためだったんです。実は……」
モニカさんからもたらされた話は思いも寄らないものだった。
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