第20話 制服が


 すでに授業が始まっていた時刻というのもあり、保健室までの道中で誰かとすれ違うことはなかった。学舎の廊下は閑散としていて静かだ。ルイーゼはその状況に心から安堵する。なぜなら未婚の貴族令嬢にも関わらず、若い男性にお姫様抱っこされている状態を他人に見られるのは恥ずかしいし外聞も悪いからだ。


 ローレンツを見上げるとその表情は真剣そのもので、甘さの欠片も見えない。純粋にルイーゼを心配してくれているのだろう。ローレンツは基本とても紳士なのだが、一方で武骨で不器用な一面があるのだ。前世のルイーゼはそんなところも何となく萌えポイントだと思っていた。勿論今世ではアルフォンス一筋である。だからドキドキなんてしない。ちょっとだけしか。


 それにしてもゲームのスチルでしか知らなかったので実際にローレンツに会って驚いた。身長はルイーゼよりも三十センチ弱は高いだろうか。ルイーゼが百六十五センチくらいであることを考えると、ローレンツの身長は百九十センチくらいはあるようだ。かなり高い。ルイーゼを軽々と抱え上げる体躯はがっしりと筋肉がついていて、よく鍛えられている。大胸筋も逞しそうで、筋肉フェチの令嬢ならひとたまりもなさそうだ。


 ところで先ほどから気になっていたのだが、なんとなくこの学園の制服がローレンツには窮屈そうに見える。サイズが合わないわけではない。そこで横抱きに運ばれながらも、ローレンツの姿をじっと見ながら違和感を感じる原因を考察してみる。

 この学園の制服は暗緑色を基調としたもので、男子は白いカッターシャツの上に暗緑色のテーラードジャケットを羽織っている。ネクタイは全学年共通の真紅だ。そしてボトムスは暗緑色ベースのチェック柄だ。


 女子も同じくテーラードジャケットだが丈は短めだ。白のブラウスの襟のカットは丸く女性らしい。襟元には真紅のリボンを結んでいる。暗緑色ベースのチェックのフレアスカートはハイウエストで膝下丈だ。ちょっと太ると着られなくなってしまう罪深いデザインだ。ルイーゼは前世のころから女子の制服のデザインが気に入っていた。清楚でとても可愛らしく見える。ゲームの中では太ることなど気にしなくてもよかったし。


 こうして見ると、ローレンツの朱赤の髪も健康的に日焼けした肌も、暗緑色の制服にとても合っていて綺麗だと思う。それなのになぜ違和感があるのかと考えながら、じっと襟元を見てみる。するとその原因はすぐに判明した。ローレンツにはネクタイがあまり似合わないのだ。なるほど、ネクタイのせいで窮屈そうに見えるのか。

 そんなどうでもいいことを考えているルイーゼの体重などものともせず、ローレンツは女性一人を抱えたまま廊下を大股で歩き続ける。そしてあっという間に保健室へと到着した。流石は騎士だ。ルイーゼはようやく保健室に到着して安堵の息を吐いた。




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