第19話 騎士ローレンツ
午後の授業に急ぐあまり小走りに走っていたルイーゼは、学園の廊下の角で突然何かにぶつかって倒れてしまう。そして倒れたときにどうやら捻挫した左手首を自身の体の下敷きにしてしまったようだ。左手首が酷く痛む。
「君、大丈夫ですか!?」
ルイーゼは痛みからくる冷たい汗をこめかみに浮かばせつつ、ゆっくりと声のほうを見上げる。するととても背の高い赤毛の男子生徒が自分の方へ手を差し伸べていた。そして男子生徒の手を取りゆっくりと立ち上がらせてもらう。
「すみません。お怪我はありませんか?」
赤毛の男子生徒が心配そうな顔をしてルイーゼの様子を窺っている。赤毛の学生の姿には見覚えがある。当然前世のゲームの記憶だ。
ローレンツ・バルテル。ローレンツは王国の騎士で、騎士団長の嫡男でもある。燃えるような朱赤の短髪に切れ長の目。赤い髪によく合う翡翠の瞳が精悍な印象の美丈夫だ。アルフォンスと同じ十八才だったと思う。このイケメンの騎士も『恋のスイーツパラダイス』の攻略対象者の一人だ。ルイーゼのイメージ的には脳筋騎士だ。
実は前世のルイーゼにとってローレンツはアルフォンスに次ぐ二番目の推しだった。なぜなら実際に話すとローレンツの言葉遣いはとても丁寧で、そのギャップにちょっと萌えたのだ。
「あ、大丈夫です。走っていたのはこちらなので。私こそごめんなさい」
悪いのはルイーゼだ。ローレンツに非はないので謝られることなどない。
「もしかしてその手首を痛めたのでは?」
ローレンツが心配そうな顔で包帯を巻いているルイーゼの手首を見る。
(ええ、すごく痛いです。涙が出そうなほどです。でも悪いのは私です)
などと内心思いながらも懸命に笑顔で取り繕う。
「大丈夫ですわ。そんなに痛くはありません。お気遣いありがとうございます」
痛みを堪えて笑顔を作り、言葉を絞り出す。人間はあまりにも痛みが酷いと呼吸もままならないものなのだと痛感する。
そんなルイーゼの言葉を聞いてもじっと手首を見るローレンツ。ローレンツの様子を見て、どう考えても授業に遅刻だわと落胆してしまう。しかしだからといっておざなりな態度は取れない。すると突然ローレンツがルイーゼの左手首にそっと触れる。
「いっ……!」
本当にそっとだったのだが、さっきの衝撃のせいで悪化しているのか、とてつもない痛みが走る。腫れているのかもしれない。ローレンツが苦痛に耐えるようなルイーゼの反応を見て眉を顰める。そして何かを決心したように頷く。
「保健室へ行きましょう。さあ!」
「ひぃっ! ちょっ、まっ……!」
ローレンツが突然ルイーゼを横抱きに抱える。いきなりお姫様抱っこである。ちょっと待ってほしい。痛いのは手首だ。抱っこ要らない。そう思いつつも痛くてまともに言葉が出ない。
そして抱きかかえられるときにちらりと視界の端に捉えてしまった。柱の陰で歯ぎしりをしながら凄い形相でこちらを睨んでいるモニカの姿を。
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