第18話 イベントクラッシャー
午後の授業を受けるべく教室へと向かう。ルイーゼはいつになくうきうきとしていた。今にもスキップしそうな勢いである。お昼休みにオスカーに紹介してもらったギルベルトと、魔道具についての話を進めた。それによって、ルイーゼにとっては夢のような魔道具が実現しそうな現状に歓喜してしまう。
(冷蔵庫、保冷庫、冷凍庫? なんて呼ぼうかしらね~♪)
そんなことを考えながら足取りも軽やかに廊下を歩いていると、突然進路上にモニカが立ちはだかった。突然の乱入に酷く驚いてしまう。
(え、なになに!?)
驚いて固まるルイーゼのほうへつかつかと近づいてきて、モニカがキッと睨みつける。
「ちょっと貴女! よくも好感度イベント潰してくれたわね!」
「好感度……イベント……?」
モニカが相変わらずの可愛らしい小動物のような目を吊り上げて抗議してくる。顔を真っ赤にして頭から湯気を吹き出さんばかりに憤慨しているようだ。モニカの様子を見て、何のイベントだろうと首を傾げてしまう。思い当たるとしたら、オスカーとギルベルトのどちらかだ。そんなイベントがあっただろうかと記憶を辿ってみる。事態を飲み込めず混乱するルイーゼに苛々したのか、さらにモニカが捲し立てる。
「今日の昼休み、ギルベルト様が図書室へ来て私に勉強を教えてくれるはずだったのよ! そしてそこにオスカー様も合流する予定だったんだから!」
(ああ、そんなイベントがあったようななかったような……)
前世でルイーゼがゲームで攻略したのは三周ともアルフォンスオンリーだった。だからあまり他の攻略対象のイベントを覚えていないのだ。ルイーゼはゲームの上でもアルフォンス推しだった。アルフォンスの神秘的なまでの美しさと何かを憂えているような悲しげな眼差しにぐっと来たのだ。私が幸せにしてあげるわ!とばかりに鼻息を荒くして、ゲームでモニカを操作して攻略に勤しんだ前世が懐かしい。
それにしても攻略対象二人の好感度アップイベントを潰してしまったとは申しわけない…………とはこれっぽっちも思わなかった。昨日クッキーを強奪した罪は重いのだ。
「あら、いべんと?が何なのかよく分からないけれどごめんなさい。ただモニカさんは殿下をお慕いしているんじゃなくて? あまり他の方に心を移されるのはどうかと思いますわよ」
言ってやった! アルフォンスだけを一途に想うのなら応援もするが、逆ハーレムを狙うならアルフォンスも、そしてオスカーも幸せにはなれない……と思う。するとルイーゼの言葉を聞いたモニカがさらに顔を真っ赤にする。怒りによるものなのか羞恥によるものなのか、よく分からない。
「とにかく! もう私の邪魔はしないでね!」
そう言ってモニカはぷんすこ怒りながら、踵を返して目の前から去っていった。午後の授業まであまり時間が無いというのに……。
「やだ、遅刻しちゃうわ!」
ふと気付くと、もう午後の授業まで時間がない。そう考えて、淑女にあるまじきことだとは思うが、小走りに教室へと向かう。ルイーゼは本来真面目だ。授業に遅刻するのは自分の信条に反するのだ。
ところが少し先にある廊下の角を曲がった途端、大きな壁とぶつかってしまう。壁とぶつかった衝撃で後ろに倒れ、まだ完治していない左手首を自分の体で下敷きにしてしまった。
「痛っ!」
とてつもない痛みが走った。まだ包帯で固定はしているが、また悪化したんじゃないだろうかと思うほどの衝撃だ。
(なぜこんなところに壁が……)
「君、大丈夫ですか!?」
ルイーゼは痛みからくる冷たい汗を滲ませつつ、ゆっくりと声のほうを見上げる。するととても背の高い赤毛の男子生徒が自分のほうへ手を差し伸べていた。
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