第17話 魔道具会議
昼休み、学園の資料室でギルベルトとオスカーと一緒に、ルイーゼは魔道具について話し合うことになった。
「魔力のコストを抑えるなら、箱の素材そのものを断熱にしてはどうでしょうか?」
ルイーゼの提案にぶつぶつ呟いていたギルベルトがはっと目を見開く。そしてばっとこちらを注視した。さらにルイーゼは言葉を続ける。
「例えば空気をたくさん含ませたウレタン……あー、えーと樹脂……なんて言ったらいいのかしら……」
真空の保温ボトルというものが前世の日本にはあった。ステンレスの水筒だ。あれなら保冷できるんじゃないだろうか。金属ならこの世界にもあるから、あとは真空に堪え切れるほどの硬さのある物ならあるいは……。
「真空なら熱を通さないと思うの。金属を二重にして中を真空状態にするのよ。空気を抜くの」
「空気を抜く、か……。それならそれなりの強度のある金属でなければいけない。厚みがありすぎると金属壁自体が熱を吸収してしまい、断熱にはならないだろうからな」
ギルベルトは感心したようにルイーゼを見て目を瞠る。金属は薄くて熱伝導率の低いものでなくてはならない。なおかつ硬いもの。この世界にはステンレスのような合金はないかもしれないけど、その代わりに魔法がある。ギルベルトの意見に大きく頷いて話を続ける。
「うーん、ではガラスはどうかしら。熱伝導率は低いと思うわ。金属に
確か前世の日本で実家の窓ガラスが複層ガラスとかいうもので、冬でも結露をしなかった記憶がある。魔法瓶も多分同じ原理だ。ただガラスで作るとなると結構重くなってしまうだろうけど、冷蔵庫なら据え置きだし大丈夫だろう。
「そして中に光が入らないように着色するか、さらに何かで覆ってしまえば断熱素材の問題は解決するんじゃない?」
そう聞いた途端に、ギルベルトは目をきらきらさせてガシッと自身の両手でルイーゼの両手を包む。
「君、凄いな! 女性でそういった飛躍した発想をする人は少ないんだ!」
ギルベルトの勢いに思わずたじろいでしまう。全て前世の知識のお陰なのでなんとなく後ろめたい。
「そ、そうなの。ありがとう」
「ああ、そうだよな。うん、魔法陣を重ねればいいってもんじゃないんだ。魔力コストが高くなるからな。抑えるには素材からか……うん、いいね」
ギルベルトが熱くルイーゼを見つめる。だが恋愛的な色っぽい眼差しでないことは歴然としている。なぜならギルベルトの頭の中は高速で回転しているようで、その考えが口から漏れ出しているからだ。
「うん、これからの課題は魔力コストをいかに抑えて高性能な魔道具を作るかだなっ。ルイーゼ、ありがとう!」
ギルベルトはばっとルイーゼから手を離して腰に手を当てニカッと笑う。そしてふと湧いた疑問を思わず呟いてしまう。
「魔法ってもっと『ファイアボール』とか『アイスランス』とか相手を攻撃するようなものを想像していたけど違うのね」
ルイーゼのゲーム脳な言葉を聞いたギルベルトとオスカーが目を丸くしている。驚かれるほど変な言葉を言ってしまっただろうか。RPGゲームでよくある名前だから言ってみただけなのだけれど。するとギルベルトがその疑問に答えてくれた。
「今の国家間の情勢では戦争の兆しはない。そういった魔法ももちろん存在するが、今の平和な時代では魔術師の力は魔道具の製作に注力されているんだ。まあ魔力を持たない者でも攻撃できる武器も作れるが……」
「そう……」
――平和な時代に攻撃魔法は必要ない、か……。でも戦争の道具は作るのね。作り置きができるからかしら。
そんなことを考えていると、ギルベルトがルイーゼににっこり笑って話を続ける。
「だが君が教えてくれたような、生活を便利にする魔道具の発想は非常にありがたい。これが実用化したら魔法省の財政もきっと潤うよ。量産はできないから高価にはなると思うがな」
「そう、よかった」
喜んでもらえて嬉しい。そんな気持ちが溢れて思わず笑み溢れてしまう。するとなぜかギルベルトがルイーゼを見て赤面する。その様子を見て、急にどうしたのだろうと不思議に思う。
「二人とも、そろそろお昼休みが終わりますよ。教室に戻らないと」
オスカーの声でギルベルトははっと我に返ったように口を開く。
「ああ、そうだな。その保冷庫に関してはまた話をしよう。もう少し話を詰めたいしな」
「ええ、いいわよ。話を聞いてくれてありがとう」
「あ、いや……」
にこりと笑ってお礼を言うと再びギルベルトが赤くなる。ギルベルトの様子を疑問に思って首を傾げつつ、資料室を出て自分の教室へと戻った。
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