第10話 トキメキこんまり旋風!〜私は無風

 夏の初めごろだったか、「ねえねえ、Konmari知ってる?」と、朝一番にボスが聞いてきた。


 なんのことやら分からず首を振ると、ボスは驚いた表情で、自分のスマホを出し、ネットフリックスの近藤麻理恵の『人生がときめく片付けの魔法』を見せてくれた。


 ええええ。


 なんか、日本で片付けの方法で話題になってるとは聞いてたけど、ネットフリックスで番組持つまでになっていたとは。


 すると、別の同僚も話に乗ってきた。


 なんか話題だから、奥さんに「見てみようよ」と誘ったけど、奥さんはけっこうな片付け魔らしく、「私はきっちり片付けできてるから、別に見なくていい」と断わられたらしい。それでも、「まあまあ」と誘って一緒に見はじめたら、奥さん、次第に前のめりになって見続け、終わると同時にすくっと立ち上がり、おもむろにクローゼットに向かったそうな。


 私的には、カナダの家はクローゼットも大きいし、『片付け』がそんなに話題になるとは思っていなかった。


 そういえば昔、元旦那のお母さんが日本に遊びにきた時、なにかの拍子に「知ってる? どこかの国では、季節が変わる時に衣類を入れ替えたりするんだって!」と、「ビックリでしょ?」的な感じで教えてくれた。


「……それ、日本もです」と答えると、今度はお母さんがビックリしてた。


 カナダでは季節に関係なく、でかいクローゼットに全季節分の洋服を収納をするから、衣替えの必要性を考えたこともなかったみたい。


 そして、こんまりを教えてくれたボスは、ある週末、とうとう『こんまりメソッド』で奥さんと共に家の片付けをしたらしい。


「まったくさ、子どももいないのに、なんであんなに荷物多かったんだか!毎年、何度言っても誕生日に、俺の母親が着もしないシャツを送ってくるんだけど、とうとう処分したんだよ!」と鼻息荒い。


 しかも、勢いづいて、いらないものを寄付できる施設にたんまり持って行ったら、こんまりに感化された人が大勢いるらしく、普段にないくらいの寄付がすでに集まってて、危うく断られそうになったらしい。ちょうどその時、持っていったのと同じくらいの量がはけて、ギリギリ受け取ってもらえたそうな。


 なんか日本に限らず、流行すると一気に広まるのはどこでも同じようで。


 そして、またまた数週間たった頃、別の同僚が、朝いちばんでスススッと私のところにやってきて、なにやら自信満々の様子で、スマホを差し出した。


 写真を見せてくれてるんだけど、なんだか暗くてよくわからない。


「わかんない? こんまりメソッドでTシャツ畳んで引き出しに収納したんだよ。もう、びっくりするぐらい入る、入る」


 引き出しの中できちんと並んでいる、Tシャツの写真だった。


 うむ、すばらしい。


 すばらしいけど、これで私以外のチーム全員がこんまりに影響されて、片付けをしたことになる。


 我が家といえば、いまだ一切片付いていない。


 番組を見ている間はやる気満々だったのに、テレビを消してあたりを見渡した瞬間、あまりの惨状にあっという間に気持ちが冷めて、とりあえず私の中で、『こんまり』はなかったことに。



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