ウィリーのひみつ 4

「記者というか、情報屋というかだな。レンブラントさんの目になり耳になり、宮廷内の噂話をまとめるのが、俺の裏稼業みたいなもんなの」


 誰より裏表のなさそうな男が、屈託なく笑って言う。


「前に言ったろ?どこで誰が聞いてるかわからないんだから気をつけろ、ってな」

「……知らなかった。そんな役目があるのね」

「まったく庭師が聞いて呆れる。そこのメイドのお嬢さんも、筆頭執事の息のかかったそういう部類の人間かと思ったのだが……私の推理が、珍しく外れましたな」

「そりゃあんた、エイミーは、すぐ顔に出るタイプだからなぁ」

「それは良い。そういうわかりやすい人間が、私は最も好きだがね」


 褒められているのか貶されているのか微妙なやりとりを聞き流しながら、私たちは裏庭へと急ぐ。頭の中は別のことでいっぱいだ。


(フローレンス様、警察のことお嫌いよね……また突然取り調べに来たとわかれば、ひどく気分を害されるのではないかしら)


「あの、やっぱり、少し待ってもらえませんか。フローレンス様に一言、許可を」

「だがお嬢さん。それこそ証拠隠蔽のためと言われてもしょうがありませんよ。主を守りたいのであれば、このまま素直について来ることですね。なぁに、そう警戒せずともよろしい。私はすでにレイ・フローレンスを絵画窃盗犯とは思っておりません」

「そう、なのですか……?」

「言ったでしょう、捜査は佳境だと。できれば、宮廷画家の目で見たものを教えて欲しい。私は、確信が欲しいのですよ」


 庭に出たとたん、ひんやりとした風が髪をさらっていく。雲は厚みを増していて、雨の気配を感じさせた。


「……では、お願い。疑っていないというのなら、少しだけここで待っていて。ほんの少しでいいから。フローレンス様、あなたのことがお嫌いなの。突然訪ねるのは良くないと思いますから……どうか心の準備をさせていただけない?」

「ははは。まぁ、当然そうでしょうな。ふむ、いつぞやのように、不信感をあらわにして無言を貫かれても困る。……では、タバコ一本、待ちましょう。アトリエでは火が許されないという話でしたから」


 男たちを建物の外に置いて、私は1人でアトリエの扉を押し開けた。


「フローレンス様、お忙しいところ申し訳ありませんが、急な来客が」


 私は広間サルーンに足を踏み入れ、はっとその場で立ち尽くした。


 広い部屋はいつも通り薄暗く、中央に置かれたイーゼルと、作業用に髪を結い上げたレイの後ろ姿が見える。彼は私に気づくことなく筆を持ったまま、描きかけの絵に集中している。


(あ、あれは……?)


 彼の側に、見たことのない、美しい乙女がいる。花を抱える、乙女の肖像が。


 白い花を抱いて微笑む、紺色のワンピースを着た少女。その頬は薔薇色に染まり、目元は優しく細められ、少し肩を縮めて恥じらっているようにも見える。細い指先が愛おしそうに花を包み、彼女の視線の先にいるだろう親しい人間を、見る側に空想させるような──暖かく華やかな色合いで描かれる、青い春の香りのする絵画だ。


(なんて素敵……! フローレンス様にしては珍しい雰囲気の絵……誰、なのかしら……とても綺麗で、可愛らしい人だわ……)


「っと。なに? 突然」

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