晩餐会の夜 3

 令嬢たちは頬を上気させて、きらきらとした瞳でレイを見た。


「お会いできて光栄です、フローレンス様。わたくし、ずっと貴方のファンでしたの」


「わたくしも。あなたが宮廷入りされる以前からのファンですのよ。父にねだって、フローレンス様の初期作品を数点、買いもとめました」


「光栄です。ありがとうございます」


 目礼して、それ以上言葉は続けずレイは晩餐会のテーブルを眺めた。


 今ので、今日の師の目的を薄々と感じとった。


 レイは、後ろ盾が少ない。功績によっては爵位を賜ることもあるかもしれないが、所詮は一代貴族。潤沢に資金があるかといえばそうでもない。


 一世を風靡する画家であっても、いつ世間から見離されるかなど誰にもわからない。いずれ絵が一枚も売れなくなる日が来るかもしれない。その時、心強いパトロン──もしくは裕福な実家が──あればと、どんな芸術家も願うだろう。金が無ければ画材を買うことすら困難だ。


 師がレイの将来を見据えて、縁を結ぼうとしてくれているのだとしたら。

 何とも難しい気持ちになって、レイは運ばれてくる料理を口に運んだ。


(感謝すべきところなのだろうが……)


 社交界でいうところの『仲良く』の仕方を、レイは知らない。それがキャンバスを並べて切磋琢磨する、という意味ではないことだけはわかる。


 彼女たちときたらフォークより重たいものを持ったことがなさそうな細腕を、絹の手袋にぎゅうぎゅう押し込んで窮屈そうにしている。


 同じ女性でもエイミーとは随分違うものなのだなと、レイはここにはいないメイドを思い出した。


 王宮の華やかさの中にひっそり佇む、彼のメイドを。


 そういえば、彼女を初めて認識したのも、このような晩餐会のパーティ会場でだった。


(あの日はたしか……、)


 そう、シティの社交シーズンの幕開けとなる、国立芸術大学の内覧会の日だった。

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