招かれざる客 4
「安心しました。さて、僕はその紛失した『乙女』たちにお会いしたことはありませんよ。どんな構図で、どのような表情で乙女らがいるのかも知らない。だから、もし、先生が『乙女と四季』を展覧会に出せなくなってしまったのだとしたら──今回の件、誰よりも僕が、とても残念に思っている」
「今月末に、シュインガー宮殿で君とゴルド・アッシュによる合同展示会が行われることは我々も把握している。そして、君が伯爵の自慢の弟子であることも」
ジョーンズ警部補は、ため息をついて、胸ポケットから煙草を取り出した。
「ここは禁煙です!」
油絵が置かれているのに。私が声をあげると、「おっと、失礼」と首を竦めて懐に煙草を戻した。
部下が彼の耳元で小さく耳打ちをする。
「……ふむ、ないか。木を隠すには森だろうと思ったのだが、どうやらここは違ったようだな」
「貴方は優秀な捜査官のようですね。どうかその調子で、早いところ犯人を捕まえてもらいたいものです。先生の作品はこの国の宝なのですから」
「展示会には、我々も警備として参加することになっている。唯一残った『春』は、みすみす盗まれはしないだろう」
「それを聞いて安心しました。宜しくお願い致します」
「捜査へのご協力に、感謝する」
おざなりな敬礼の後、彼らはようやくアトリエを去って行った。
ドアが閉まってアトリエの中に静寂が戻りようやく大きく息を吐くことができた。それでも胃のあたりがむかむかして、気分はすっきりしない。
「何だったのよ、もう……。ほんと、失礼な方でしたね。火を取り出すなんて信じられない。ああ、どっと疲れたぁ……蛇に睨まれた蛙の気分って、こういうことを言うんでしょうか」
「そうなのか? ずいぶん強気に食ってかかっていたじゃないか。なかなか勇ましかったけれど」
「うっ、必死だったんです! だってあの人たち、乱暴に絵を触るんですもん」
アトリエの中に残された足跡を見て、私は再びため息をついた。さすがにこれじゃあ、掃除するしかない。極力フローレンスの邪魔にならないように、午後はアトリエの床掃除に時間を充てなくては。
「行きましょう、フローレンス様。空気を入れ替えましょう。それからしっかり鍵を閉めましょう。私、このことはメイド長に報告しておきます」
「鍵か。こんなところに来る人間が他にもいるとは思えないけど」
「いいえ、フローレンス様の仕事の邪魔になるようではいけませんもの。スペアを作ってもらえるといいんですが、ハンナの許しがもらえるかどうか」
「無理なら無理でいいよ。戻ろうか。それ持ってくれる?」
「はい……って、うっ。くさっ」
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