34 日記 2020年4月 殺そうという意思がなくても人は死ぬ。

 4月5日(日)


 夜、23時頃に職場の同期のグループLINEに「明日、仕事休もうと思う」というメッセージが届く。

 会社からメールが届いていて、僕らが働いてるビルの同じフロアで働いている方から新型コロナウィルスの陽性が出た、とあったらしい。

 すぐに自分のスマホで確認する。

 明日の朝までには、共有部分の消毒作業は完了する為、基本的には通常通りの運営を行う、とメールにはあった。

 体調不良や健康に不安を抱えている方は欠勤の連絡をするように、という一文もあった。

「家族と住んでいるし、明日はとりあえず休むかな。こんな状況で働くのは、おかしいでしょ」

 と同期の一人がメッセージしていた。

 同期は四名いて、その全員が家族か恋人と住んでいた。

 一人暮らしは僕だけだった。

 同じ部署の同期が「郷倉くんは、どうする? 応答せよ!」とグループLINEで呼びかけられた。

 ここで、僕が行くと言ったら、同じ部署の同期は「じゃあ、行こうかな?」とか、言いそうだと思って「休むかな」とメッセージした。


 4月6日(月)


 朝、会社に休む連絡の電話をした。

「熱はありますか?」

 と訊ねられ、体温計がないので、今日できたら買います、と返答。

「わかりました」

 簡単なあいさつを言って、電話を切る。

 同じフロア内で新型コロナウィルスの陽性が出た翌日でも、出勤されている方がいる。

 部屋にいることに耐えらなくなって、薬局へ。

 体温計は売っていなかった。

 4月7日の夜に緊急事態宣言がなされる、とネットニュースでやっていたので、一応少なくなっていたお米と、気分転換にヘアカラー剤を購入。

 とりあえず、何があってもお米があれば、なんとかなるだろう、と楽観視して帰宅。

 休んだ罪悪感は残っていたので、ネットで応募できる「講談社ラノベ文庫新人賞」へ送る為の作業をする。

 数年前に書いた作品で、とくにライトノベルという作風ではなく、青春小説と言う方が正しい作品だった。

 大賞が300万円とあって、それだけあれば、仕事を休む罪悪感は消えるかな? と考える。

 夜に髪を染めたら、買い間違えたらしく、茶色の髪が黒になっていた。ライトブラウンと書かれているけれど、どういうことだろう?

 まぁ良いか。


 4月7日(火)


 夕方過ぎに緊急事態宣言がおこなわれる。

 僕の働く部署はクローズになる、と説明を受けるも、出勤しなくて良くなる訳ではなく、別のスキルを獲得してもらう、と言われる。

「国からも、会社からも補償が出ると言われていない為、今は何も約束できない」

 給料が出ない状態で、一ヶ月休めと言われるのは地獄だと思っていた。けれど、緊急事態宣言なる不要不急の外出を控えるよう言われる状態で、毎朝同じ電車に乗って、会社へ行き、また同じ電車に乗って家に帰らなければならない、と考えると少し絶望した。

 部屋に帰って鏡の前に立った時、昨日からの黒髪に目がいく。

 せっかくなので、緊急事態宣言が終わるまでは、黒髪のままでいようと思う。


 4月8日(水)


 職場の後輩がマスクがない、と言っていたので、洗って使えるマスクを一つあげたら、とんでもなく感謝された。

 渡した僕がビックリした。

 職場はほとんど混乱状態で、別のスキルを教える人もおらず、ほとんど自習の時間ばかりだった。

 後輩から「やっぱり、あいみょんは良いですよね!」と言われる。

 小説投稿サイトのカクヨムに水曜日の18時にエッセイを更新するようになって、もう少しで2年になる。

 今回のエッセイは尾崎世界観の「ブレないことよりも、嘘くさくないことのほうが大事だと思います。」という言葉をとっかかりに書いた。

 オチはaikoの「進化」は高度すぎて、受け手にほとんど「変化」とは感じさせない、というような文章を宇野維正の「1998年の宇多田ヒカル」から引用した。

 そうすると、読んで下さった方から「尾崎世界観がaikoの大ファンだって、知ってました?」と教えてもらう。

 知らなかった。


 4月9日(木)


 出勤してから、同じビルの別の階で働いていた方から新型コロナウィルスの陽性が出たことを知る。

 未だに稼働している部署で、出勤された方は一人だけだった。

 休憩時間に会社でダウンロードしろと言われてした災害時用のアプリを開き、新型コロナウィルスについてのメッセージがあるか確認する。

 ある。

 昨日の夜22時過ぎに届いていた。

 もし、このメッセージに気づいていたら、僕は出勤していただろうか? と考える。

 たぶん、出勤していない。

 4月10日と13日に有給申請をし、土日も含めて4日の連休を作る。

 仕事の終わり頃、同期と少し話をする。

「一緒に住んでいる彼氏が仕事を辞めて、ずっと部屋にいるから。有給は極力使わず温存するよ」

「有給を使って休んでも、一人になれないから?」

「うん! 一人、大事」

 と言う同期は別に彼氏のことが嫌いなわけではないらしい。 ただ、一人の時間が好きなだけ、とのこと。


 4月10日(金)

 

 昼過ぎに会社のアプリに上司からメッセージが届く。

 これからの出勤についてで、出勤人数を絞る為に土日に働く働くことは可能か、という内容だった。

 可能だと伝えて、火曜日と金曜日が休みというシフトに変わる。おそらく緊急事態宣言の間なのだろう。

 ん? 月曜日の13日を有給にしているから、僕は今日を含めて5連休になるのかな?

 小説とエッセイがいっぱい書けそうで嬉しい。

 上司から締めくくりに「休日は大好きなお酒を嗜んでください」とある。

 僕は職場でも、そういうキャラになっているのか。

 そう言われると仕方ない。

 ハイボールを作って飲む。

 小説を書こうとパソコンに向かう。

 エッセイにするには、ちょっと過激な内容が含まれるテーマを掌編として書いてみる。

 書きながら、ヤマシタトモコの「ひばりの朝」を思い出す。

 あとがきに「殺そうという意思がなくても人は死ぬし、死ねば生き返らない。生き返るとすればそれは奇跡だ。という話でした。」とある。

 そういうことって確かにある。


 4月11日(土)


 岸政彦の「断片的なものの社会学」を読み終える。

 贅沢なお酒を飲むように毎日少しずつ読んでいたが、終わってしまった。

 こういう本が世の中にはある、ということが素直に嬉しかった。

 あとがきには「この社会は、失敗や、不幸や、ひとと違うことを許さない社会です。私たちは失敗することもできませんし、不幸でいることも許されません。いつも前向きに、自分ひとりの力で、誰にも頼らずに生きていくことを迫られています。

 私たちは、無理強いされたわずかな選択肢から何かを選んだというだけで、自分でそれを選んだのだから自分で責任を取りなさい、と言われます。これはとてもしんどい社会だと思います。」とある。

 本当にその通りで、他に付け加えるべき言葉は何もない気がする。

 夜に職場の同期のグループLINEにメッセージが届く「俺、仕事辞めるかも」という内容だった。

 同期のメンツが聞いたところ、詳しいことは言えないけど、会社側と揉めたんだということだった。

 なんとなく、このタイミングでなければ彼も会社と揉めなかったんじゃないかと、勝手に思った。

 LINEに気づくのに遅れたのもあって、僕は「お疲れ様でした」と簡単な返信だけした。




 ※はじめて日記だけを載せてみた訳ですが、これで良かったのかな? と思わずにはいられない部分が多々あります。

 来週は普段のエッセイに戻りますので、ご容赦いただければ幸いです。


「エッセイにするには、ちょっと過激な内容が含まれるテーマを掌編」にしたものは、「拳銃と月曜日のフラグメント。」に載せました。

 書いていて、久しぶりに苦しくなりました。

 一応、URLです。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889114358/episodes/1177354054895401871

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る