実録・婚活ノート 番外編3

「ファイルNo.14。二つ年上(大手流通関係の幹部職)。

・マッチング倶楽部で申し込まれた。見た目はタイプじゃなかった。

・地元の大手スーパーの大勢の従業員に顔を知られているので、サイトに顔写真を掲載してないと言った。

・先生が生徒に、親戚のおじさんが姪に話すような言葉使い(偉そう!)。

・アクティブなタイプで、引退したら奥さんとキャンピングカーで全国を回りたいと(そこは魅力的)。

・ネット婚活でたくさんの女性と会っていて、体験談がおもしろかった。

・「あなたに決めたい」「もう一度会おう」と言ってきたのに、約束の日をすっぽかされた。

【考察】

・仕事で指導的立場にいるらしく、諭すようにしゃべるクセがついてて、ふつうの話をしてても少し威圧感があって気になった。

・若者全般を上から目線で見ていて、自信満々でしゃべる。言ってることは間違ってないけど、意見を差し挟みづらい。亭主関白タイプかなと思った。

・人生にも信念を持ってる感じで、とりあえずついて行けば楽しい思いもできそうだったけど、何か思い通りにならないことがあった時にキレそうに見えた。

・好きになるというより、人生のパートナーとしてはありかもと思ったけど、すっぽかしたのはあちらのプライドかな? と。」


 No.14氏を初めて見た時、「亀」だと思った。

 細身で身のこなしは軽いのだけど、首をニュッと突き出して顔を常に上方に向けてる姿勢が不自然だった。しかも、その角度から目線だけで人を見下ろすので、尊大な印象を与える。


 話し方も変わっている。たとえば、問いかけは「明日は晴れるのか?」で、断定は「明日は晴れだ」「傘は要らないだろ」。語尾が文語調だったり、事務的だったり。夫婦で言えば、昔の風? かなり堅苦しく威圧的で、慣れないせいか居心地の悪さを感じる。私が年下だったせいかもしれない。


 でも、真剣にパートナーを探してる熱意は伝わったし、話題が豊富で、その点は楽しかった。

 中でも、これまで婚活サイトで会った変わった女性会員の話。こちらは、ライバルたるほかの女性会員については知る由もないので、興味津々で聞いた。


「初対面の会話が終わったら、いきなり自分の写真を出した人がいるんだ。特殊な下着をつけてるヤツ。自分はマゾで、そういう相手をしてくれる人を探してると言ってた。ものすごくきれいな人で、こっちもまあ、それはヤブサカじゃないと思ったけど」


「へぇ、そんな人が!? で、どうしたんですか?」

 私は目を丸くして、食いついた。

「一回だけ、お相手させてもらったけど、やっぱダメだった。ついて行けなくて、萎えた」


 婚活の裏で、そんなことも行われているの!?

 世界は広いんだなぁと、子供みたいな感想を抱いたものだった。


 が、そんなことをざっくばらんに打ち明けられ、間接的にオトコの面を見せられたことが奏効したのか、取っ付きにくい印象がやわらかくなった。


 婚活の場で、初対面で、何をどこまで話すのか。そこがオトコとオンナの、ちょっとしたなのだと思う。

 それは、お互いのキャラと、そこから生まれるその時の雰囲気によって違うのだろうし、その日たまたまの体調や気分によっても違うのだろう。もっと言うと、日が違えばまた違った結果になるのかもしれない。そういう、あやふやで割り切れないものだ。


 端的に言うと、相性と運勢。

 それは、コントロールしようと思ってできるものじゃない。


 最終的にはネット婚活オンリーになっていながら、私はずっと受け身の無料会員だったことは本編にあるとおり。唯一使えるのが、関心のある相手に「興味あり」のボタンを押す機能だったのに、それすら一度も押したことがなかったばかりか、登録当初を除けば、男性会員のプロフィールを見て回ることすらしていなかった。


 すべての会員とメッセージのやり取りができるのは有料会員だけというのは、私が登録していたどちらの婚活サイトも同じで、真剣に活動しているオトコはほとんどが有料登録していた。


 No.14氏に会ったころ、私はたまたまマッチング倶楽部の「期間限定有料お試しキャンペーン」に参加中で、ちょうどその期間があと何日かで切れるというタイミングだった。

 顔合わせのあと、一週間後の金曜日にまた食事に行こうということになり、No.14氏からはすぐに「とても素敵な人だと思いました。あなたと真剣につき合ってみたいと思い、自分のプロフィールの公開を停止することにしました」というメッセージが来た。


 先走られると引いてしまうのが私の悪いところなのだけど、そこはグッと堪えて、私もちゃんと向き合おうとは思った。


 ただ、ネット婚活も長きにわたり、複数の相手を平行して比較検討するスタイルにすっかり慣れ切っていた私は、そう言われたからとて自分もほかのオトコをこのタイミングで全部切って、No.14氏に集中するということはまったく考えなかった。ましてや、プロフィールの公開停止と再開の手続きはちょっと面倒くさい。

 No.14氏と会う間もそのまま載せておいて、なんなら他会員からのアプローチに反応しなければいいだけの話だ。


 というわけで、私はNo.14氏のこととは関係なく、単なるサイト管理のつもりでプロフィールにこう付け足した。


「今は『有料お試し』中ですが、●日で期限が切れます。そのあとは、こちらからメッセージを送ったり、無料会員の方とやり取りしたりできなくなりますので、ご了承ください」


 No.14氏には金曜日を楽しみにしている旨を伝えて、具体的な待ち合わせ時間や場所の連絡を待った。ところが、数日前になっても連絡がなく、何度か催促もしながら当日夕方まで待ったけれど、ついに音沙汰はなかった。


「真剣につき合いたい」と言っていたのに? と不審に思いつつ、「連絡がつかないようなので、今日はもう家に帰ります。また、ご都合のいい時に連絡ください」とメッセージを送った。


 結局、それからも連絡はなく、そこでやっと、彼は一週間の間に私から撤退すると方針転換して、意図的にすっぽかしたのだと解釈することにした。そして、一応、理由を考えてみた。


 もしかして、自分はプロフィール非公開にしたのに、私が同じタイミングでわざわざプロフィールに補足を入れたから? それで温度差を感じた?


 確かに、その時点で温度差があったのは事実だけど、そういう理由で簡単に引かれてしまうと、それはそれで「どうして?」などと思ってしまう。

 好いた方が働きかけるのでなければ、会ってすぐ双方が惚れるなんていう奇跡みたいな確率を追い求めることになっちゃうからだ。


 苦戦続きの婚活で私が思ったのは、奇跡が起こらないのなら、自分で奇跡を起こすべく、どちらかががんばるしかないってことだ。もちろん、跳ね返される確率も低くはないし、彼のようにプライドがあるとできないのだろうけど……。

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