自己嫌悪。
「年二回の大パーティ”夏の部”(外部参加あり)」のあと、私は千春にメールをした。
「千春ちゃん、こんばんは。
その後、交際の申し込みとかあった?
私はまったくなし!
その代わり、堤さんから電話があったの。
『どうだった? 申し込みあった?』って。
ないって言ったら、『俺、申し込みあったんだよ』って。
なんかうれしそうで、すごいショックだったけど、
誰? って訊いたら、『なんと、外部参加の人』って。
それで、ピンと来たんだ。清香さんかなって。
ビンゴだったよ。
近々会うんだって。
目を付けてたのかって訊いたら、
『実は、彼女と一緒に来ていた看護師さんの方を狙ってた』だって。
ひどくない?
そっちには自分から申し込まないの? って訊いたら、
パーティではあんまり感触よくなかったらしい。
で、知らなかったんだけど、会員外の参加の人って、
当日の会費もちょっと高かったでしょ?
さらに、交際の申し込みをするのに一回千円とか払うらしいよ。
だから、堤さん、『そんなお金かけてまで会いたいって言ってくれるから、
よっぽど真剣なのかと思った』って言うのよ。
私、飲み会の最後に、清香さんに堤さんのこと『どうですか?』って
勧めちゃったんだよね。冗談だったんだけど。
まさか、こんなことになるとは……。
私たちが向かい合わせに座って、私のところに堤さんが来て、
それで私が清香さんに堤さんを売り込むみたいなことを言っちゃって。
この巡り合わせ、恨むわ。
てか、バカバカバカ……って、いま最高に自己嫌悪だよ。
どうしよう〜!? 二人がうまく行っちゃったら!」
メールを読んだ千春から、すぐに電話がかかってきた。
「真奈絵さん、どうしてお勧めしちゃったの!?」
「どうしてだろ。私、なんか、堤さんが私のところに来てくれて、うれしくて気持ちが大きくなっちゃってたのかなぁ。それに、これまでずっと堤さんは婚活パーティでは空振り続きだったわけでしょ。まさか、今回に限って……なんて思いもしなかった。油断してたわ」
「んもぅ。油断どころか、最高に危険! わざわざ発破かけちゃうなんて」
千春に言われて、私の後悔はさらに大きくなった。本当にバカだ。
黙り込んだ私に千春が言った。
「まあ、でも、またフラれる可能性もあるよね。今までも、うまく行きそうでも最後に相手が二の足踏んだ、みたいなこと言ってたじゃない?」
「う、うん。そうだね。清香さん、なんか色白でひ弱そうな感じだったし、あんまり農家に向きそうに見えないしね」
「そうだよ。とにかく、二人のデートのあと探りを入れて、真奈絵さんもそろそろ積極的にアピールしていった方がいいと思うよ」
「そうだね。てか、私こそ、農家向きじゃないんだけど」
そうだ。人のこと言ってる場合じゃない。農家でいいのか、私?
煮え切らない私に業を煮やして、千春が畳み掛ける。
「真奈絵さん、今は、サラリーマンみたいな農家もいるらしいよ。街の中に住んで、畑に通うの。で、作業が終わったら、また街に帰るの。真奈絵さんは今の仕事を続けたいんでしょ? だったら、こっちに二人で住んで、堤さんが実家を手伝いに行くみたいな形もありかもよ?」
いつの間に情報を仕入れたのか。千春が急に年上のお姉さんに思えてきた。
「そうなの!? それいいね。もし、恋愛としてうまく行ったら、その先のことは二人でいろいろ相談してみればいいもんね。最初から、農家は……って躊躇してるからダメだったんだよね。うん、ちょっと元気出た。ありがと」
「とにかく、デートの結果、探り入れてね。そして、またメールで教えてくださいね〜」
千春との電話を切ると、私は落ち着いて考えを巡らせ始めた。
農家に入って農作業することを想像するから、その先が見えなくなってしまう。あくまでも堤といっしょになりたいということを前提に、どうしたら二人の将来をともにできるのかを二人で考えればいいのだ。
まるで、清香とはすぐにダメになり、晴れて堤が私のところに戻ってくると確信しているかのようだ。どこから来るのか、その根拠のない自信。しかも、そもそも堤が私のものだったわけじゃないのに。
気づいて自分でも笑ってしまったけど、私は彼が唐突に電話をくれて、清香のことを話してくれたことがうれしくもあったのだった。
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