売り手市場とて、うれしくない。
それからしばらく私の中で、中川さんの話が引っかかっていた。
これくらいのトシになった男性って、みんなあんな感覚なんじゃないかなぁ。
しかも、パーティに申し込むのは女性の方が多いと来れば、ただでさえ少ないパイを、大勢で奪い合ってることになる。そして、その数少ない男性の中に、宇宙人もいたりするのだ。本当に前途多難だ。
独身貴族を決め込んでるオトコたちを集めて、説教したい気分だ。
今はいいかもしれないけれど、もっとトシを取った時、一人の人生がいかにさびしいか、キミたちは考えないのか!?
一人が楽って言うけど、一人がつらいってことも、この先必ずある。そんな時に後悔しても、もう遅いのだぞ!
選挙の演説みたいにオトコたちを前にそんなことを説いてる自分の姿を想像して、私はまた虚しくなった。説教したからって、じゃあ、真奈絵さんと結婚しますと誰かが言うわけじゃない。
「だから、有無を言わせずいっしょにいたいとお互いに思える相手と出会えばいいんだよ!」
——結局、妄想から振り出しに戻ってしまった。
二週間後の日曜日の午後二時、結婚相談所主催のティーパーティが開かれた。
カップリングと銘打っていないせいか、男女の人数がそろっているわけではなかった。が、総勢三十人くらいはいるようだ。
気軽な立食スタイルで、しょっぱ系のお菓子や女子が好きそうな小振りなスイーツ、そして、コーヒーや紅茶、日本茶などが並んでいた。それらをセルフで手に取りながら、適当にまわりの人とおしゃべりするという趣向のようだ。
「おじさんが多いなぁ」と思っていると、さっそくおじさんの一人が近寄ってきた。
「何か取りましょうか」とおじさんはフードコーナーを示しながら言った。
「えぇ、じゃあ私もいっしょに行きます」とおじさんのあとについて行くと、紙皿に少量のお菓子を盛った。
お互いの年齢や、登録歴、仕事のこと、趣味のこと。そんなことを話す。しばらくして気づくと、あまりみんな動いていない。ずっと同じところで同じ人と話している感じだ。
見かねた仲人おばさんが、「皆さん!」と声をあげた。
「いろんな人とお話してくださいね。よかったら、今シャッフルしましょう」と大声で促す。
見回すと、斜め後ろにいた男性と目が合った。そのまま何となくその人と話す形になった。さっきのおじさんより若めだが、おじさんであることに変わりない。
話し始めると、もう一人別のおじさんが、そばに来て私たちの話に参加してきた。そのあとさらに、別のおじさんがふらりと歩いてきて立ち止まった。おじさん三人に取り囲まれてる格好だ。
かと言って、自分がモテてるようには思えない。きっと、男性陣がみんなけっこう年上なせいだ。単に私がおじさんたちより若いということで、関心を引いてるだけなのだろう。そして、もしこの勢いのままにこのおじさんたちと一対一でお見合いしたとしても、また速攻で断ってる図しか浮かばない。
「ティーパーティも空振りかぁ」
話が途切れて手持ち無沙汰になると、とたんに気落ちしてしまった。意外にこのパーティに期待してたんだな、と、自分で笑ってしまう。
あらためて会場を見回してみると、離れた所に私と同じような年格好の一団がいた。四人くらいで何だか楽しそうに話している。
「あっちに行ってみようかな」と、さっきのおじさんたちを振り返ると、自分たちだけで話している。私が離れても大丈夫だろう。
でも、こういう時、私はそんなに思った通りに振る舞えない。自分から遠い方までわざわざ歩いて行って、すでに楽しそうにしてる人たちにうまく入り込むなんて芸当はできそうもない。どうしようか逡巡していると、別のおじさんが話しかけてきた。
もう今日は、この人と残りの時間を潰して終わりでいいや。
また一連の自己紹介をして、適当に話をして、途切れて気まずくなる。私は、「ちょっとすみません、食べるもの取ってきます」と移動して、適当に食べ物を皿に盛ると、そのままそこに立って食べた。ほどなく、パーティの終了が告げられた。
「この会議室は、あと三十分は開放しています。残りたい方は残ってお話していてもいいですよ」と仲人おばさんが大声で言った。
私は、会場をあとにした。
あまりどこかに立ち寄る気分ではなかったが、まっすぐ帰るのも虚しい。
ブラブラと、見たくもない洋服屋さんを冷やかしながら歩き、駅が近づくと結局そのまま電車に乗って帰宅した。
家に帰ってバッグを置くと、何だか満たされない気持ちで、私は未練がましく相談所のフライヤーを取り出した。確かこのあとも、ほかのイベントがあったはず。
「先着十名まで。茶話会<三十五〜四十四歳の部>」
「年二回の大パーティ”夏の部”(外部参加あり)」
近々にはこの二つだった。
茶話会は三週間後だ。先着となっているので、早く申し込んだ方がいいだろう。
空振り続きで気落ちしてた私は、かえってムキになっていた。
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