第七章五節 到着
「さて、行くか」
シュランメルトはやっとの思いでパトリツィアを引き剥がすと、自らの太ももの上に座らせていた。
そして左右それぞれにある半球の上に両手を乗せ、
そんなしれーっとしたシュランメルトの様子を見て、
「な、なな、何ですの………………ッ!?」
それは、フィーレである。
先ほどのシュランメルトとパトリツィアのやり取りを見て、歯を食いしばって必死に怒りをこらえていたのだ。
「わたくしの目の前で、あのようにイチャイチャイチャイチャ…………。わたくしの事を、完全に忘れ去ったのではありませんわよね!?」
「聞こえているぞ、フィーレ。まさかそんな事はないさ」
「でしたらッ! あんな間近で、あのようなイチャイチャぶりを見せつけないでくださいませッッッ!」
ムキーッと苛立ちをあらわにしながら、フィーレは後部座席に散々八つ当たりをしたのである。
その座席すらも堅牢で、八つ当たりした己に痛みが帰ってくる結果となっただけなのであった。
*
それから二時間ほど。
今度は警戒していた襲撃もなく、シュランメルト達一行は無事にリラ工房の前へ到着した。
「着いたか」
巨大な玄関扉が開く。
そこからは、リラはゆっくりと、グスタフは走って、
「パトリツィア、フィーレ。
「はーい!」
「かしこまりましたわ」
二人が自らの体に触れた事を確かめると、シュランメルトは
次の瞬間、三人は大地の上に立っていた。
「送迎に感謝しよう、王室親衛隊の諸君。そして、ノートレイア」
シュランメルトが短く伝えると、フィーレが深々と頭を下げる。
「皆様、ありがとうございました。お陰様で、無事に到着出来ました」
「とんでもございません。姫様をお守りする事が、我々の使命でございます」
先頭の
しばらく経った後、ゆっくりと立ち上がって撤収を開始した。
「では、我々はこれで失礼致します!」
そしてズシンズシンと足音を響かせながら、王都へ向かって帰還を始めたのである。
「さて、あたしもこれで失礼しますかね。御子様」
最後に残った
「ここに泊まっていかないのか、ノートレイア?」
シュランメルトが引き留めるも、ノートレイアは首を振って答える。
「お気持ちはありがたいのですがね、御子様。ここの主の許可も確認していない上に、何より……」
「何より?」
「取り急ぎ報告したい事も、ありましてね。フヒヒッ」
それだけ告げると、ノートレイアは
「とはいえ、いずれお邪魔したいですね、御子様。見た所、ここは騎士団の設備に匹敵してそうですし、何より優しい雰囲気ですからね」
ノートレイアは若干名残惜しそうに、しかし使命感に燃えた目つきでシュランメルトを見て、シュランメルトの提案を断った。
「それでは。フヒヒ」
そして胸部の装甲を閉じると、
「行ったのか」
「ええ」
シュランメルトとフィーレが飛び去る
と、誰かが駆けてくる音が聞こえた。
フィーレが振り向くと、視界にはグスタフが映った。
「フィーレ姫ー!」
「グスタフ……ただいま♪」
「おかえり、姫♪」
思わず駆け寄ったフィーレは、抱えていた箱を落とす。
「あっ、箱が……!?」
「はしゃぎすぎだ」
しかし、地面に落ちる直前にシュランメルトがキャッチした。
「想像より重いな。ともあれ、中身は無事だ」
「シュランメルト、お帰りなさい」
「ただいま、リラ」
シュランメルトは、無言でリラに箱を見せる。
「ところで、この箱はいったい?」
「ん? ああ、ある貴族が『リラ工房で預かってほしい』と言ってきてな。何でも、希少な金属だそうだ」
「預かります」
「重いぞ」
シュランメルトが箱を渡すと、リラは何とか受け取った。
「では、これは中で見せてもらいましょうか。戻りますよ、みんな」
「はい、師匠」
「うん、ししょー!」
「ああ」
かくして、シュランメルト達は全員無事に、リラ工房へと戻ったのであった。
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