第355話涼香と麗の真面目な話 涼香は麗が欲しくて仕方がない

「かの滝沢馬琴が京都を訪れた時の話になりますが」

涼香は西洋史が専門と思ったけれど、日本史にも詳しいらしい。

麗は、そんなことを思いながら、涼香の話を聞く。


「それで麗様、元禄期の話になります」

「滝沢馬琴は、京にて味よきものとして、麩、湯葉、芋、水菜、うどんのみと」

「つまり、全て水が関係しますが、京の地、京の水で育った作物や食べ物には、他の国では真似できないものがあると書いています」


麗も、ようやく言葉を返す。

「京都は東山、西山、北山と三方を山に囲まれた盆地」

「清少納言も書いていたけれど、冬はいみじう寒き、夏は世に知れず暑き」

「酷暑酷寒に耐えきった旨味のある食物と、それに対処する生活」

「水で言えば、大原から高野川と北方の雲が畑からの賀茂川」

「丹波から嵐山に至って、南に流れる桂川」

「地下にも数多くの水脈があって、都七名水とか、西陣五名水とか、宇治にもあるかな、名水が」


涼香も麗の知識に頷き、続ける。

「祇園祭の御手洗井、菊水の井、茶の湯の梅の井、利休井、言い出したら切りがありません」


麗は、話の方向性を戻す。

「銀行の直美さんと話をする、それで考えたんだけど」

「いわゆる不誠実な仕事をしている人には、融資をしたくなくて」

「酷暑酷寒に耐えながら、京都の地、京都の水を使い、誠実に仕事をしている人を、育てたいと」

「それでも経営が苦しければ、九条のグループに入れて、守って育てたい」

「それが京都の伝統を守ることになるのかなと」

「外国人の観光客も、本物を知ることになる」


麗は「偉そうなことを言い過ぎた」と思うけれど、涼香は熱心に聞く。

「ほんま、そうしていただけると、まともな人は喜びます」

「程度の悪い、金儲けだけの阿漕な人は、泣くかもしれませんが」


そんな難しい話も終わり、麗と涼香は風呂。

隅々まで丁寧に洗われるので、麗は腰を引き気味。


「ふむ、麗様の弱点です?」

「これは、新しい発見」

「あまり、見られると恥ずかしゅうて」

「ドキドキしてかなわんです」

結局、いろんなことを言いながら、涼香も顔を赤く染める。


麗は、涼香の身体を美しいと思う。

お世話係の直美や佳子のような、ふくよかな体型ではない。

しかし、均整が取れて、足も長い。

「ずっと見ていたくなるような美しさ」と、そのままを言う。


涼香は、それがうれしくて仕方がない。

「あら・・・もう・・・麗様・・・」

「うち、年上ですって・・・」


麗は、また感じていたことを言う。

「涼香さんの話って、フランクな感じ、とても好きです」

「筋がピンと通っていて、ずっと話したくなるような」


涼香は、その時点でうれしくて仕方がない。

「言葉でのうて・・・」

麗を抱きしめ、その唇は麗の耳を襲う。



夕食は、厚めのステーキ、シーザーサラダ、コンソメ、パンのオーソドックスなもの。

涼香は手際よく調理し、一緒に食べ始める。


麗も珍しく食が進む。

「美味しい焼き方と、お肉で」


涼香は、安心したような顔。

少なくとも、京の九条屋敷よりは、食べていると思う。

ただ、食が進む麗の口元を見ていると、また麗を欲しくなってしまった。

「あれほど甘く美味しく・・・お風呂でいただいたのに・・・もう・・・」

「これが麗様の魔力なんやろか・・・」

「でも、当分は味わえる、人目も気にせず、これはいい生活や」

涼香は、最初は不安もあった都内の生活が、今はうれしくて仕方がない。

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