第344話全員で隆の見舞い 

見舞う麗にとっても、見舞われる隆にとっても、九条家関係筋の娘たち、つまり麗の嫁候補までが加わっての見舞いは、本当に想定外のはず。

しかし、五月から晃に事前連絡があったらしく、面会はスムーズ。


麗は、隆に苦笑。

「下鴨神社に葵祭のお礼で全員参拝したら、多くなってしまって」

「驚いた?」

隆は、元気そうな顔。

「麗ちゃん・・・いや麗様も大変やな、みんなのお世話で」

「ああ、ありがたいことや、早う、もっと元気になろうと思う」


蘭が関係筋の娘たちに一礼、隆の手を握る。

「どう?病気は苦しくない?」

隆は、麗以上に、蘭に相好を崩す。

「ああ、蘭ちゃんか、大きくなって」

「まじにべっぴんさんや」

「今は、花の東京の女子高生?」

「今度制服姿も見たいわぁ」

蘭もうれしそうな顔。

「うん!今度送るよ!」

「早く元気になって、一緒に東京を歩こうよ」

「いろんな美味しいものを、おごって!」

隆の顔に、みるみる赤みがさす。

「はぁ・・・それなら、がんばらんとなあ」

「こんな可愛い蘭ちゃんとデートなんて、」

「従兄でなかったら彼氏って思うわ」


そんな冗談で、病室での面会は終了。

関係筋の娘たちが、見舞いを晃に渡した後、全員で病室を出る。

驚いたのは、隆がベッドから降りて、一緒に歩き出したこと。


隆は笑顔。

「長い距離では難しいけれど、病院の玄関くらいまでは、歩けるようになったんや」


晃も隆の言葉を補足する。

「心配された癌細胞は、相当消えて」

「食欲も増して、おやつまで欲しがるくらい」

「後はリハビリに、どれだけかかるか」


そして晃は、麗に小さな声で耳打ち。

「朝早う、五月様から、今日のことのご連絡が」

「それから、隆は、麗様がお見舞いに来られはじめてから、急に食欲が増して」

「最初は吐いたけれど、それでもまた食べて」

「とにかく、その前は、何も食べられん状態で」


麗は、晃に尋ねた。

「その原因は、わかります?」

「実は詳しく聞いていなくて」

晃は、悔しいような悲しいような顔。

「今となっては、かまわんと思いますが」

「恵理と結の一言から」

「詳しいことは、また後でゆっくり」


麗は、いつの間にか、自分以外の全員が九条家のバスに乗っていることを確認。

「わかりました、また後で、夜にでも」

と言い終え、バスに乗り込むと、茜が麗の隣に。

「隆さんの話やろ?」

「ああなった原因」


麗が驚いて頷くと、茜。

「うちも知っていること、時間を見て教える」

麗は茜にそっと聞く。

「要するに、隆さんも晃さんも、恵理と結の被害者ってこと?」

茜は頷く。

「ああ、そうや・・・」

「それは麗ちゃんも・・・うちも母さんもやけど」


ただ、麗はその件の話については、そこまでにした。

それは関係筋の娘たちの様子が気になったことがあるけれど、バスの中に蘭が乗っていることに気がついたため。

しかも、詩織と蘭と、本当に楽しそうに会話が弾んでいる。


少し難しい顔をしていた茜が、麗に笑いかける。

「蘭ちゃんも、石仏の会議に出たいようや」

「どないします?リーダーさん」


麗は、腕を組んで考え始めている。


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