第330話翌朝の新幹線には奈々子と蘭も一緒

翌朝の新幹線は、午前8時過ぎ。

かなり早いと思うけれど、麗と佳子の前には、葵と蘭が座っている。

また、横並びの席には、花園美幸と奈々子。

麗は驚いたけれど、花園美幸が麗に説明。


「一度気分転換と隆さんのお見舞いを兼ねて、奈々子さんと蘭さんは、京都へ」

「香料店にお泊りです」


麗としては、実に妙案と思った。

うつ状態から脱しているとはいえ、やはり奈々子の不安は消えない。

そうかといって、花園美幸も、いつまでも付き切りで神経を使っているわけにはいかない。

であるならば、生まれ育った京都に少しでも戻り、実兄の晃と話をするとか、香料店の従業員と話をする。

そして甥の隆の見舞いをすれば、「元に戻る」効果があるのではないかと思う。


横目で奈々子を見ると、本当にうれしそうに車窓から外を眺め、時折美幸に話しかけている。

麗としては、「とりあえず何とかなるかな」と思っていると、蘭もうれしそうな顔で奈々子の顔を見ている。


葵が麗に声をかけてきた。

「麗様、今日のこれからのご予定は?」

麗は手帳を確認して答える。

「九条屋敷に戻って、その後、理事会」

「夜は、ご存知の通り、詩織さんと」


葵の次は、蘭から。

「麗様、明日は?」

麗は、蘭の気持ちは「できる限り一緒にいたい」なのかなと思った。

それでも、端的に答える。

「午前中にブログ執筆のお礼で、茜さんと朝早く下鴨神社に」

「そこから隆さんの見舞い」

「午後は石仏の小会議、本会議は来週だから、その準備」


蘭は、少しがっかりしたような顔。

「すごく忙しいんですね」

麗は、そんな蘭に付け加えた。

「蘭が九条屋敷に来れば、午前中くらいは一緒でもいいよ」

蘭は途端にうれしそうな顔。

「はい!早起きします!」

麗は、少し顔をやわらげる。

しかし、次の言葉が問題だった。

「蘭、寝坊は肥満の元」


これには佳子も葵も、花園美幸も驚くけれど、奈々子は口をおさえて笑う。

「これが、麗様と蘭のいつもの会話」

「ですから気にしないで」


それでも蘭は。うれしいらしい。

「なつかしい、麗様の毒舌」

「それを聞くとホッとします」

「でも肥満の元だから、肥満ではないですよね?」


麗は、その質問を受け流す。

「そう?そう自覚している?」

そしてまた、危険な一言。

「どう見ても、前より」


蘭も懸命に抵抗した。

「グラマーに成長したとは?」


その会話が面白いのか、佳子、葵、美幸まで口をおさえて笑い出すと、折から車内販売の姿が見えた。

麗は蘭の顔をじっと見る。

「蘭、アイス食べる?」

蘭は、赤面。

「うー・・・ここでそういうことを・・・」

その蘭に葵が声をかけた。

「全員分買います、大丈夫だよ、蘭ちゃん可愛い、それくらいの感じがいい」


蘭が微妙な顔になると、美幸が麗の顔を見る。

「麗様がアイスを食べる顔が、面白そうで」


途端に麗は顔をしかめ、他の女性たちは、笑い出している。


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