第315話佳子に見とれる麗 シンプルな朝食を喜ぶ

茜との連絡を終えた麗は、佳子と風呂に入った。

新築間もないお屋敷、ボタン一つでジャグジーへの切り替え、大型スクリーンがあるなど、最先端のものが備え付けられているけれど、麗の目は佳子に注がれている。


佳子は、恥ずかしそうな顔。

しかし、何も隠す様子はない。

「麗様に見られて、恥ずかしいような、でも・・・うれしいような」


麗は、素直に言うことにした。

「いつも、佳子さんを見て思うのですが」

「どこから見ても、美しくて」

「天使様とか・・・女神様とか」


佳子は、顔が赤い。

「もう・・・ドキドキしますよ」


麗自身としては、「こういうことに、慣れてきたのかな」と思うけれど、それ以上に脱力感のほうが強い。

また、佳子の身体も、温かく柔らかかった。

麗は「寝ましょう」との一言だけ、佳子は「はい、これもうれしゅうて」と小さな声。

そして、そのまま二人、抱き合って眠りについた。



朝食は、シンプル。

香り高い海苔に包まれた、様々な種類のおにぎりと、信州味噌の味噌汁だった。

佳子

「お米は少しだけ塩を強めにして、炊きました」

「中身は、定番の鮭、梅、海苔の佃煮、アミの佃煮」


麗は、最初にアミの佃煮のおにぎりを食べて、驚いた。

「佳子さん、すごくシンプルですが、美味しくて食が止まりません」

「噛みしめるほどに、旨味が湧いて来るような、元気が出るような」


佳子はうれしそうな顔。

「はい、京都では、なかなか食べられません、この味は江戸の味ですね」

「他のおにぎりも、お試しください」


麗は、他のおにぎりを食べながら、珍しく苦笑。

「これなら京都の屋敷でも食べたくなります」

佳子は、明るく笑う。

「はい、内緒で、お届します」

「喜んでいただいて、幸せです」


そんな朝食を終えた麗は、登校のため、お屋敷を出た。

そして三田線に乗り込み、考えた。

「九条家に戻るまでは、一日二個のおにぎりだった」

「それを、四個も食べてしまった」

「信州味噌の味噌汁も、しっかりとしていて、美味しかった」

「全てが美味しかった、好みの味を完全に分析されたのか」

「さすが、九条家といったところかな、能力が高い」



一方、麗を見送った佳子は、九条家に日々の定例の報告。

佳子

「おにぎりを四個完食していただきました」

「さすが、佳子さんや、安心や」

五月

「とにかく麗様が元気に食べることが一番や、それが基本中の基本」

「レシピは、お世話係全員で共有を」

佳子

「しっかりとしたものを作れば、食べていただけるようで」

「そやなあ・・・味覚そのものは、しっかりしとる」

「ただ、何かに気を使っている、あるいは面倒になると、食べる気の方を失くす」

五月

「とにかく、麗様は自分を抑えすぎるところがある」

「それを、九条家全体で、解きほぐしたい」

佳子

「ほんの少しだけ、笑顔が見えました、すぐに戻ってしまって」

「思いっきりの笑顔が見たいな」

五月

「そうやねえ・・・それがないと、落ち着かん」


日々の定例報告は、続いている。

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