第312話美幸の不安 茜とも相談
花園美幸は麗が不安でならない。
それは久しぶりに京都の九条屋敷で顔を見た時に、信じられないほどに「他人行儀な態度を示されたから」、それだけではない。
「本当に子供の頃から、いじめられ続けてきて」
「暴言、暴力、無視の連続」
「全て逆らえない目上の人から」
「暴言と暴力は、恵理と結。そして父役の宗雄」
「無視は、母役の奈々子」
「どれほど、心を傷つけられ、苦しくて悲しかったのか、辛かったのか」
「どれほど痛くて、血を流したのか」
「そんな自分をかばうこともなく、無視をする奈々子」
「そんな子供時代を18年も続け、どこに生きる希望があった?」
「どこに楽しいことがあった?」
美幸は、自分を含めて、周囲の無力を悔やむ。
「宮様の血筋というだけで、皆遠慮や」
「大旦那かて、宮様の血筋には、引く」
「一応は叱るけれど、苦言程度やったし」
「結局、何の効果もなかった」
「大旦那が恵理と結に苦言を呈しても、麗ちゃんは、その後宗雄から倍返しで苛められる」
「結局は・・・直接の加害者と、無力な傍観者の違いだけや」
「うちらは、麗ちゃんには、何の助けにもなっとらん」
「麗の能面」を思い出すと、また辛い。
「心を殺すしかなかったんやろな」
「笑っても泣いても、酷い目にあう、だから何があっても表情には出さない」
「態度も、本当に慎重、決して偉ぶらない」
「うちらの裏切りを恐れとるんか・・・」
「九条家後継になったから、手のひらを返しただけとか」
「結局は、信頼できない人たちと、思いこまれているやろな・・・今までが今までやもの」
九条家に戻ってからの麗も、また不安。
「急な・・・急過ぎる環境変化や」
「いきなり九条の後継なんて言われて」
「実の両親が殺されたことを知り」
「そんな中で、隆さんの見舞いを健気に律義に」
「関係筋から寺社衆、街衆まで立派な付き合い、評価も期待もされて」
「九条家の仕事にも、素晴らしい才覚と指導力を示す」
「でも・・・それはそれで・・・並みの人やと、抱えきれないほどのストレスや」
「よく無難に、こなしとると思うけど」
「麗ちゃんは、相当に我慢強い、ということはあるけれど」
大旦那から、美幸への頼みは、奈々子の面倒もあったけれど、本当は麗の心身のカウンセラーだった。
「でも・・・麗ちゃんが、恵理と結に苛められている現場で何も助けられず」
「しかもその原因はうちや・・・そんなうちに・・・麗ちゃんが本心を打ち明けられるやろか・・・ありえん」
「大旦那としては、外部に聞かれるよりは、まし・・・そんなところかな」
花園美幸は、結局、考えがまとまらない。
事情を知る茜と相談することにした。
美幸
「とにかく、麗ちゃんは、すごいけど、ストレスも相当なもので」
茜
「そやなあ・・・頑張り過ぎや、マジで」
美幸
「過去のトラウマと、今のストレス、いつか爆発するかもと」
茜
「うーん・・・今は必死に動いとるけれど・・・一息ついた時に」
「何かの拍子で、何かが起きる?」
「まさかの突然行方不明とか、後継拒否とか?」
「ありえんとは思うけど・・・不安や・・・」
美幸
「それを抑えるのは、第三者的な人」
「子供時代も、今の九条家後継の立場も関係なく、おおらかに麗ちゃんを包み込める人がいいなと、悪いけれど、茜さんも、うちも、京都の人やと難しいかも」
茜
「そやなあ・・・九条家としては、麗ちゃんは絶対確保やけど」
「麗ちゃんには辛いかもな、お役目とは言え」
美幸
「とにかく麗ちゃんが泣くほど、本音を言える人が欲しい」
「心の中の冷たい塊を、何とか溶かしてあげたくて」
美幸と茜は、夜遅くまで、麗の不安を語り合った。
しかし、結論には、至らなかった。
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