第304話策士としての麗

蘭が自分の部屋に入り、少し時間が経った。

香苗から奈々子に電話がかかってきた。

香苗

「一体、麗ちゃんに何を言われたん?」

「相当落ち込んでたけど、急に変わるから」

奈々子

「ごめんな、心配かけて」

「香苗には。ずうっとやけど」

香苗

「それは、後で」

「時折、もどかしくて腹も立つけど」

「今は、急に変わった理由や」

奈々子の声が湿った。

「麗ちゃん・・・あ・・・麗様やけど」

「まず・・・寂しかったの?って・・・」

「それで、泣いた」

「まさか、もう顔なんて見れんと思うとったから」

香苗

「はぁ・・・今は雲の上のお人やし」

「今までのことも負い目?」

奈々子の声が震えた。

「・・・う・・・うん・・・申し訳なくて・・・」

「大旦那様にも厳しく叱られるし・・・うちがそもそも・・・悪いけど」

香苗は低い声。

「もともと宗雄との結婚があかん、無理やりやもの」

「奈々子の立場もわかるけど」

奈々子は、声を張る。

「あの男は知らん、もう関係ない」


香苗

「あ、ごめんな、宗雄やない、麗ちゃんの話や」

奈々子の声が、また湿った。

「とにかく大丈夫って言われて」

「最後まで、困らんようにするって」

「見捨てるようなことはしないって・・・」

香苗は胸をなでおろす。

「はぁ・・・麗ちゃんは嘘はつかん、安心やな、それは」

奈々子は、少し間があった。

「それで肩の力が抜けた時に、頼みたいことがあるって言われて」


香苗は、奈々子の次の言葉を待つ。

とにかく全く予想がつかない。

奈々子の声に、また力が戻った。

「着物とか香料についての文を書いて欲しいって」

「原稿レベルでいいって、最終校正は麗様がするからって」


香苗は、驚くやら、うれしいやら。

「はぁ・・・それは・・・面白いな」

「奈々子も、もともとは香料店の娘やもの」

奈々子は、言葉を続けた。

「うちの晃兄さんと、共同作業にしても、かまわんとか」

「麗様からも連絡をしてあるみたいや」


香苗は、面白くて仕方がない。

「あらあら、それは・・・責任重大やな」

「落ち込んでられん」

奈々子も、少し笑う。

「鎌倉の瞳も、分担するって言い出すやろか」

「ますます文がゴチャゴチャになる」


香苗

「麗ちゃんは、瞳の店で、香り文化がおかしなことになっとるって、嘆いていて」

「基本を知っている人が少ないとか」

「まあ、大ベテラン三人が組めば、大丈夫やろ」

奈々子の声が力強い。

「田舎では気にもせんかったけど」

「仕事となれば、恥ずかしいことはできん」

「ましてや九条の名を冠した文やもの」


香苗は奈々子との電話を終え、思った。

「まずは奈々子と蘭を見捨てないと、安心させ」

「違う新しい目標を示すか・・・」

「それも、得意な分野を、慣れ親しんだ仲間と一緒にするように仕向ける」

「お互いの相乗作用も期待しているのかな」

「まあ、麗ちゃんが忙し過ぎるから、一石二鳥、いや三鳥以上か」

「どのみち、奈々子が復活すれば、みんな安心する」

「なかなか、麗ちゃんは策士や、うちも相談に乗ってもらうかな」

香苗は、この時点で奈々子以上に、麗と話をしたくて仕方がない。

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