第281話麗には指導者の資質

大旦那と麗がお屋敷に戻ると、既に情報が伝わっているのか、使用人とお世話係全員が満面の笑顔で、お出迎え。

五月と茜も、本当にうれしそうな顔で頭を下げる。


大旦那

「予想通りや、麗は大活躍や」

麗は首を横に振る。

「いえ、予想外でした、言い過ぎたと反省しています」

五月は、構わず麗の腕を取る。

「お姫様方も全員来られるとのこと、全ては準備できています」

茜は悔しそうな顔。

「麗ちゃんの演説聴きたかったなあ、もう一度できる?」

麗は困ったけれど、茜にはこっそり願い事を言う。

「姉さま、なるべく早く終わりにして、隆さんのお見舞いに行きたい」

茜は途端にうれしそうな顔に戻る。

「わぁ・・・麗ちゃんに頼まれるなんて、姉さん冥利につきる」


さて、そんな一行は、九条家の大広間に集まった。

大旦那は最初だけ、話をする。

「大方はさっき話したとおりや、麗の夏休みから、本格的な活動になる」

「必要経費は、九条財団から出す」

「寺社や役所との交渉で困ることがあれば、九条家で対応する」

「麗を中心に、たたき台を頼む」

「みんなで協力して、よき計画に」

そこまで言って大旦那は麗に話を振り、退席した。


麗も、これでは、ためらっている場合ではなかった。

立ち上がって、また話を始める。

「急な思いつきの話をして、お寺さんにしても、皆様におかれましても、積極的な協力を申し出ていただいて、本当にありがたく思います」


再び、出席者全ての注目を集めながら、麗は話を続ける。

「いずれの仕事にしても、キチンとした組織づくりが肝心」

「指揮命令系統と組織、役割分担は明確にするべきと思うのです」

「重複する仕事や仕事漏れは、仕事の進行を阻害するのですから」


麗はそこまで話をして、三条執事長にお願いをする。

「三条さん、黒板かホワイトボードみたいなものがあるでしょうか」

三条執事長は、にっこり。

「はい、早速手配をいたします」

その言葉通りに、大きなホワイトボードを大広間に運び入れる。


麗は、そのホワイトボードに早速、話をしながら書き始める。

「まず、組織の仮の名称は、石仏保存調査ということに」

全員が納得した顔をするので、麗はお世話係の葉子に声をかけた。

「葉子さん、会議の議事録の作成をお願いしたい」

葉子がうれしそうに頷く顔を見て、麗は全員に説明。

「葉子さんは日本史に詳しいこと、ここのお屋敷におられるので、議事録も作りやすい」


誰からも反論がないことを確認して、麗は話を進める。

「まずは決めやすい部分から」

「会計は・・・銀行の直美さんで、よろしいでしょうか」

「補助として、ここのお屋敷の経理係の佳子さん」

その任命に、直美と佳子の顔がパッと輝く。

また、誰からも反論が出ない。


麗は寺との交渉の担当決めに移る。

「お寺さんからは、積極的な協力を申し出られています」

「ただし、お寺内にある石仏も、相当多量なもの」

「ほぼ、人海戦術も考えなくてはなりません」


学園長の娘、詩織が手をあげた。

「はい!学園の先生とか学生にも協力を呼びかけます!」

「もう、動きたくてウズウズしております」

麗は、詩織の申し出に、少し頭を下げるけれど、セーブをかける。

「ありがとうございます、詩織さん」

「ただ、動くのは少し待って」


麗は次に不動産の麻友を見た。

「お寺にない石仏も数多くあると思うのです」

「その調査については地域に明るい不動産に、できれば学園の学生さんにも、あるいは街衆や行政にも協力をいただく必要があります」

これには詩織も麻友も、すぐに同意、二人して握手までしている。


麗が最後に話を振ったのは、文化財団の葵。

「葵さんは、集まって来た写真と調査文書の整理分類」

麗は最後に自分の役目を言う。

「私は全てをチェックします」

「気がついたことがあれば、再調査もします」


茜は、麗の司会進行を見て、驚くばかり。

「まあ、テキパキと理路整然と、誰も文句が言えん」

「ホワイトボードのお役目の字も、メチャ美しい」

「指導者やな、麗ちゃん、その資質にあふれとる」


茜が隣に座る五月を見ると、同じ思いらしい。

「麗ちゃんは育つよ、大旦那を超えるかも」

ますます、うれしさを隠しきれない顔になっている。

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