第237話京都に戻る新幹線にて 麗が直美に提案

麗と直美は、午前7時にアパートを出た。

直美の荷物は、前日に京都に送ったらしく、身軽になっている。


駅までの道、麗にぴったりと寄り添って歩く。

「麗様、ほんまに幸せな一週間でした」

麗も、やさしい顔。

「いえ、美味しいお食事と、素晴らしいお世話、ありがとうございました」

直美は下を向く。

「何か、寂しいような」

麗は、答えるのが難しい。

「この次のお世話を楽しみにしています」と無難な言葉しか、返せない。


新幹線に乗り込むまでは、車両や駅構内の混雑もあり、二人とも、ほぼ無言。

それでも、品川を出て、新横浜に近づいた時点で、麗は直美に声をかけた。

「直美さん、少し相談したいことがあるのですが」


直美は、麗の改まった声に、姿勢を正す。

「はい、麗様・・・」

麗は、ゆっくりと話し出す。

「九条財団の業務見直しを考えていて」

直美

「はい、伺っております、素晴らしく面白いお話と」


麗は直美の顔を見た。

「食文化事業の中で、直美さんにも協力をお願いしたいなあと」

「創作の京風洋食とか、やがてはレストランをとか」

「直美さんには、その手助けを」

「具体的には、課題も多いですけれど、それは相談して」

直美は、その丸い目を、ますます丸くする。

「え・・・うちがですか?」

「うちなんかで・・・いいのですか?」


麗は、直美の手を握る。

「はい、研鑽をしていただいて、やがては責任者に」

「しっかりとバックアップは約束します」


直美は、予想もしない話に、顔が真っ赤。

そして、うれしくてたまらない。

「あらーーー創作京風洋食ですか・・・マジに面白そう」

「新作ですよね、当然・・・」

麗は頷く。

「できれば、次に京都に戻った時に、新作を一つ」


直美は、麗の顔をじっと見る。

「ほんま、気配りの人やなあ」

「麗様と離れて寂しいうちを・・・こんな形で慰めて」

「気落ちしている暇もできん」

「新作も面白いし、頑張れば将来まで・・・バックアップ?」


麗は、恥ずかしそうな顔。

「直美さんの料理が、心がこもっていて、美味しかったので」

「直美さんなら、任せられるかなあと」


直美は、麗の手をキュッと握り返した。

「やります!麗様、やらせてください」

「美味しい新作を作ります」


麗も、ホッとした顔になった。

「ありがとうございます、急な話を受けてもらって」

少し安心したらしい、シートを倒し、その目を閉じた。


直美も、まだ胸のドキドキがおさまらないけれど、麗と同じようにシートを倒し、目を閉じた。

「ほんま・・・ええ人や・・・離れられんと思うとったら」

「うちの将来まで考えてくれていて・・・それも面白い課題まで・・・」

「うちのことを考え、九条家のことを考え、京都まで考えておられる」


薄目を開けて、麗の横顔を見る。

「朝・・・お風呂で責め過ぎたかも・・・」

「でも、麗様も、たくさん可愛がってくれた」

「麗様は・・・身体も美味しい」

「でも・・・お屋敷に戻ると」


少し忘れていた寂しさが、また戻って来た。

「次は経理の佳子さんか」

「はぁ・・・順番やから、嫉妬もできん」

「でもなあ・・・うちより佳子さんのほうが美味しかったら・・・」


直美やうれしさと寂しさ、そして不安の複雑な気持が、交錯状態になっている。

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