第100話麗の場面展開、現実的な解決策

「どう答えていいのか」

麗は、実に返答に困った。

何しろ、一番目にしたくない名刺が、目の前にある。

よりによって、叔父の香料店、従兄の隆に万が一があれば必ず跡継ぎの話をされる香料店に取材など、どう考えても、ありない話になる。

そして、そもそも京都との関係は、絶対に公にしたくはない。

できれば、麗自身が記憶から抹消したいと強く思っている関係なのだから。


「ところで・・・」

麗は、懸命に場面展開を模索する。

「具体的な日時とかは決まっているのですか?」

麗は、学生である自分は、授業がある平日は遠い京都までは出向けないということと、土日の休みとなれば、京都の街は観光客が殺到するのでとても店の中を見物しながらの取材は無理と思っている。


佐保は、麗の顔を見た。

「うーん・・・上司からは、7月の雑誌の記事にしたいから、5月中には取材するようにとかで」

「あとは、麗君の都合と先方の都合」


麗は、その佐保の言葉で、ある意味、安心した。

そして、いつもの断り文句の滑らかさが出る。

「佐保さん、学生ですので、毎日授業があります」

「ですので、平日は僕は、難しいかと」


頷く佐保に、麗は言葉を続けた。

「最近は、京都も外国人観光客とかを含めて、相当数の観光客とのニュースであふれています」

「となりますと、そのような老舗の人気香料店に、土日に取材した場合に、先方の迷惑になる可能性があるのでは」

「そうなると、期待しているほどの取材が出来るかどうか」

「葵祭の時期も、相当込み合いますし、なかなか・・・」


佐保は頭を抱えた。

「そうか・・・麗君の言う通りだよね」

「確かに、取材相手に迷惑をかけると、ロクな記事にならない」

「でもなあ・・・」

佐保は、やはり社内の意地悪な上司を気にしているようだ。


麗は、そんな佐保が可哀想になった。

「もし、代案とならば・・・」


佐保の目は、濡れている。


麗は代案を示した。

「そこの香料店に、アシスタントが都内の学生とか、土日は京都は混むとかの事情を話して、都内の関連店舗を紹介してもらうとか」

「その方が、お互いに楽なのでは?」


佐保は、ようやく落ち着いた。

「うん、それが正解かなあ、主に雑誌も関東圏での販売が中心になるし」

「なかなか行けない京都よりは、出向きやすい店ね」

「しかも、ご紹介された関連店舗でも、取材にもお客様にも、しっかりとした対応をするはずだよね」


麗としても、佐保の反応は、満足。

そもそも、京都、しかも叔父の香料店に取材がなくなれば、それでいい。

「後は・・・連休明けなどに・・・連絡など」

麗が佐保に言うと、佐保は立ち上がった。

「ありがとう、麗君、助かった」

と、そのまま麗の前に立つ。


佐保は麗を立たせ、抱きしめた。

「安心したら、お腹減った」

麗は、困った。

「隠しても仕方ないけれど、おにぎり二個しかないです」

佐保は、麗の耳をしゃぶった。

麗の身体がビクンと震えた。


「まったく・・・そんなことだろうと・・・」

佐保は、麗の背中を撫で始めた。


「ご飯一緒に・・・何とかする」

「でも、その前に・・・麗君を食べる」

佐保の声はかすれている。

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