第98話麗は彰子と佐保と学会などの話、佐保がアパートの前に。

中西彰子も、麗には相当な魅力を感じている。

「うん、実に面白い」

「麻央の気持がよくわかる」

「引き取って育てたいくらい、私も」


高橋麻央

「とにかく一旦、引き付けられたら、離れ難くなるタイプ」

「育てたいよね、本当に」


麗は、そんな話の中、興味を持ったことがあった。

「あの、高橋先生と中西先生にお聞きしたいんですが」


高橋麻央と中西彰子が頷くので、麗は質問をする。

「例えば、万葉集を研究している学者と、源氏物語を研究している学者が、一緒に学会に出るとか、共同研究をするとかはあるのでしょうか」


中西彰子は難しそうな顔になった。

「いやーーー・・・まず、ほとんどない」

「万葉は万葉、源氏は源氏」

「その万葉をやっている学者も、せいぜい古事記と日本書紀。続日本紀、風土記を読んで、その方面の学者と交流する程度」

「できれば考古学とか、もう少し科学を用いた分析をしている学者とも交流したいけれどね、なかなか関係の構築が進まない」


高橋麻央も真剣な顔。

「源氏でも文面に添って解釈を進めて行く人が多いけれど、白楽天の影響とか、もう少し中国詩の研究者と交流したいし」

「庶民から貴族、皇室までの生活文化を研究している学者とも、より交流を深めないと、実際のことはわからないかも」


麗は、少し考えて、またポツリ。

「万葉集で言えば、人言を繁みとか」

「源氏では人の聞こえとかがあって」

「つまり、世間の噂を本当に気にする」

「言霊の国で、夕方に門の所に立って、通り行く人の言葉で恋占いをするとか」

「源氏も、夕顔の死の時は、人の聞こえを気にして、必死に隠し通す、その娘玉鬘の京都帰還の際もそうかなあ」


中西彰子は腕を組む。

「そうねえ、下手な裁判よりは、人の噂のほうが怖かった」

高橋麻央も目を閉じて考える。

「古代から現代もそうだけど、人の噂を日本人は異様に気にする」

「ネットで匿名の人から面白半分に暴論を吐かれても、本当に悩む人もいる」

中西彰子

「SNSも、そんな感じ、それで悩む、小学生から大人まで」

高橋麻央

「確かに言霊の国、すごい破壊力だね」


麗は、話の筋が変化してしまったことを申し訳ないと思った。

「すみません、脈絡のない話をしてしまいました」

と謝る。


中西彰子は笑顔。

「いや、面白い、こういう話は好き」

高橋麻央は、意味ありげな顔。

「麗君を真ん中にしてさ、夜通しとか、面白そう」

中西彰子も、すぐにその話に乗る。

「汚らしい年寄り学者とか、威張っている教授連中より、いいね」

高橋麻央

「美味しい子だなあ、生きる楽しみが増えた」

中西彰子は麗を直視。

「私も万葉研究に協力してもらうかなあ」

高橋麻央は、手でバツのポーズ。

「私が先約、ねえ、麗君!」


麗は、これでは答えづらい。

頼りにされているらしいと思うけれど、簡単に「はい」と応じるわけにはいかない。

結局、無難な答えをすることになった。

「明日の英語の宿題をこなすことにします、アパートに戻リます」


麗は、名残惜しそうな中西彰子と高橋麻央に頭を下げ、さっと研究室を出た。

そして、いつもの通り、コンビニでおにぎり二個を買い、アパートに戻る。

すると、佐保が待っていたらしい、駆け寄ってきた。

その佐保は、涙目になっている。

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