第90話麗は、麻央と佐保の誠意に応えようと思う。

麻央の車が、麗のアパートに近づいた時点で、麗は麻央と佐保にお礼を言った。

「窮地を救ってくれて、本当にありがとうございました」


麻央

「そんなことない、当たり前、私が誘ったんだし」

佐保は麗の手を強めに握る。

「着替えと教科書を持って、私たちの家に行くんだよね」

麗は、首を横に振る。

「いえ、それは三井さんから緊急に逃れるため」

「どうやら、すぐには、その危険もなさそうです」

「これ以上、ご迷惑をかけるわけにはいきません」


麻央は冷静。

「そういえばそうなんだけど・・・」

佐保は手を強く握ったまま。

「このまま帰したくないなあ、すごく楽しかったもの」

麗は、困った。

本当にアパートの近くまで、来ているから。

「わかりました、また近いうちにお邪魔します」


麻央は含み笑い。

「次は教室から拉致するかな」

佐保は、またグッと麗の手を強く握る。

「私が拉致してもいいよ、拉致して襲うかも」


麗のアパートが目の前になった。

麗は、「アパートに入ってもらって、珈琲でも」と声をかけると、麻央も佐保も、拒むことはない。

すんなりとアパートに入り、麗の淹れた珈琲を飲む。


麻央

「マジに美味しい、フレンチプレスかあ・・・」

佐保

「コクが出るね、珈琲本来の味、しかも淹れ方が簡単」

麻央

「大学からここに通って麗君の珈琲を飲む」

佐保

「麻央をお屋敷に住ませて、私が麗君とここに住む」

麻央

「うん、交代でもいいかなあ、あのお屋敷広すぎ、これくらいが使いやすい」

佐保

「麗君と愛欲の日々もなかなか・・・」


そんな危険な話もあったけれど、麻央が話をまとめた。

「麗君の都合がつく時でいいの」

「本当に一緒に麗君と研究したいの、だから一緒に住んで欲しい」

「佐保も、仕事を手伝って欲しいと思っているし」


麗は、その申し出が、本当にありがたかった。

何しろ、今までの人生で、これほど大事にされたことはない。

実家の家族にしろ、京都にしろ、気が滅入ることが多かった。

しかし、今、目の前にいる麻央と佐保には、善意しか感じ取れない。

日向先生の温厚な滋味に満ちた顔や声も、少しずつ麗の心に根をおろしている。

「この人たちと付き合っていけば、安心かもしれない」

「たとえ、失敗しても、京都や冷たい両親よりはマシだろう」


そう思うと、麗には断る理由はない。

この善意の人たちの誠意には、応えようと思った。

「わかりました、連休明けには、泊まりに行きます」


麻央と佐保は、立ち上がった。

そして、そのま麗を抱きしめた。

麻央

「絶対だよ、麗君」

佐保

「好きなの、麗君」


麗は、その温かさにしばらく身を委ねていた。



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