第39話桃香は麗のあまりの態度に怒って帰ってしまった。

「張り倒したいけれど、そうもできない」

桃香は、また目に涙を浮かべる。


しかし、麗には、その理由がわからない。

「張り倒すのも意味がわからないけれどさ、その前にどうして、桃香ちゃんがこの部屋にいるの?」


桃香は懸命にこらえる。

そして、もう機関銃のようにしゃべりだす。


「何でって言ったってな、心配やから来たんや」

「そしたら、知らない女の人がいて・・・」

「麗ちゃんが、どこか引っ越したんか?とか」

「ついに女を連れ込んだのか?」

「それも美人のやさしそうなお姉さんや・・・」

「うちは、ショックや、マジで・・・」

「よくよく事情を聞けば、こちらが恥かしくなるような麗ちゃんの不始末や」


桃香の声に、はっきりと怒りがこもり始める。

「一日一食?ちゃんと食べるって約束したやないか?」

「そんな生活で、身体壊すの当たり前や!」

「みんなの心配・・・うちの心配・・・どう思っとるんや!」

「お母さんも・・・蘭ちゃんも泣いとった!」

「どうして、心配する人を泣かすんや!」

「ただ、食べるだけやろ?」

「何で、それが出来ない?」


その桃香の言葉が響いたようで、麗は、しきりに胃のあたりを、さすり始める。

それでも、小さい声ながらも、反発。

「心配って言われても、僕の身体で、僕の命だよ」

「食べたいように食べて、生きたいように生きるって、どこが悪いの?」

「山本さんには、救ってもらって、申し訳ないけれど」


桃香は、その時点で麗の言葉などは聞かなかった。

いきなり立ち上がって、コンビニで買ったお粥を温めはじめる。


「もう知らん!」

「お粥を温める、コンビニのやけど」

「後はお茶」

「うちは、温まったら帰る!」

「麗ちゃん、勝手に食べて!」

「冷蔵庫にはうちが作ったお弁当を入れてある」

「明日の朝は香苗さんが来るって」


桃香は、ほぼ新品の御椀にお粥を盛り、ペットボトルのお茶を一緒にテーブルに置いた。


麗は、あっ気に取られて、ただ見ているばかり。

それでも、お礼はボソッと言う。

「桃ちゃん、ありがと」

しかし、次の言葉が、桃香の機嫌を更に損ねた。

「食べられそうだったら食べる」


桃香は、もう麗の顔は見ない。


「知らん!勝手にして!」

「生きようと、死のうと、うちは知らん!」

「生きたかったら食べて!」

「死にたかったら、好きにして!」


桃香は、後手で思いっきりアパートのドアをバタンと締めて、帰っていった。



麗は、桃香が怒って帰って行った理由が、よくわからない。

「勝手にアパートに入ってきて、勝手に文句を言って、お粥を温めて帰った」

「何も、こっちから頼んだわけではないのに」

「お弁当を冷蔵庫に入れられても、そもそも朝に食べる習慣はない」

「無理やり押し付けて、文句を言うって、どういうことかな」


麗は湯気をあげているお粥に目をやった。

「食べたくない、文句を言われたから胃が痛い」

「お見舞いに来たのか、胃を壊しに来たのか?」

「でもいいや、もう知らないって言われたし」

麗は、結局、お粥には口をつけず、シャワーだけをして、また眠ってしまった。

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