第23話麗の午前中はほぼ順調、しかし三井芳香に呼び止められる。

麗は午前1時過ぎまで「古代ローマ帝国歴史大全」を読みふけった。

しかし、その午前1時を過ぎると、さすがに眠くなった。

昨晩は、怖い夢、時々見る怖い夢を見てうなされたことを思い出したけれど、連日の夜ふかし、さすがに疲れていたらしい。

ぐっすりと夢などは見ず、眠ってしまった。


麗は、朝は小鳥の鳴き声と目覚ましの強めのベル音で目を覚ました。

「6時間は眠った、だから寝不足ではない」

「夢も変な女も見なかった」

麗は、昨日の朝のような寝汗をかいていないことを確認する。

「少しは時間に余裕がある」

そのため、水筒に入れる珈琲もゆっくり準備。

少々多めに淹れたので、朝、珍しく珈琲を飲むこともできた。


珈琲が胃に入り、少し落ち着いた麗は、ベッドに置いたままの「古代ローマ帝国歴史大全」に目をやる。


「2週間で大学図書館に返さないといけない」

「マキャベリのローマ史論も同じだけれど」

「ただ、手元に置きたい書籍ではある」

「さて、手元に置き続けるためには」


麗は、すぐに結論を出す。

「当たり前のことだ、神保町に行って探すだけ」

「少し歩けば、情報は入るはず」

「値段は不明、しかし探さなければ、何もわからない」


その後は手帳にて、本日の講義を再確認。

麗にとって好都合なことに、今日の受講は午前10時半からの「フランス文学史」だけだった。

そうなると、行動予定もすぐに決定。

「まずは大学図書館に、駆り出した書籍を返却、その後はフランス文学史を受講」

「受講終了後、まっすぐに京王線連結都営新宿線で、神保町に直行だ」


行動決定後、速やかに麗はアパートを出て、いつもの能面にて久我山駅に到着。

そのまま都合よく、急行列車に乗り込む。

その乗り込む際に、急行に乗り遅れた三井芳香を見かけたような気がするけれど、全く興味がないので、見返すこともしない。


大学に到着してからも、麗の動きは実にスムーズ。

顔だけはなじみの司書嬢に、無言で「古代ローマ帝国歴史大全」と「マキャベリのローマ史論」を無言にて返却。

司書嬢の「早いですね」などの声かけは、完全無視。

そのまま踵を返して、「フランス文学史」講座を受講する。


この「フランス文学史」の講師は、30代半ばの女性。

丁寧かつ、歯切れのいい口調にて、最も古く最も知られている11世紀に書かれた『ローランの歌』を解説する。


「つまり西ローマ帝国皇帝、シャルル・マーニュの軍勢の功績を理想化して語っております」「中世騎士道にも多大な影響、その後の西欧文化の一つの源流を形作った書でもあります」

・・・・・

とにかく難しい話、馴染みが少ない話ではあるけれど、テキパキと語るので、麗はまた引きずり込まれる・

「ついでに神保町で、シャルル・マーニュに関する本も買うかなあ」

とまで考えた時に、講義は終了となった。


「さて、神保町へ直行」

麗は、予定通りに教室を出て、廊下を歩く。

「まあ、1時には着くだろう」

そう思って校舎を出た時だった。


後方から、突然、自分の名前を大声で呼ばれた。


「ちょっと待って!麗君!」

女性の声だった。

それも、どこか聞き覚えのある声、それも、2回繰り返される。


麗は、数歩歩いて、ようやく、立ち止まる。

「この俺に誰が用がある?声には聞き覚えがあるけれど」

麗は、疑問のまま、3回目の名前呼びかけがあったので、ようやく振り返る。

そして、麗は首を傾げた。

麗の目の前には、怒り顔としか見えない三井芳香が腕を組んで立っている。

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