第14話 麗のアパートに桃香が入り、大騒ぎ

三井芳香を降ろしたアウディはまた、麗のアパートに向かい、走り出す。


麗は運転手の桃香に礼を言う。

「ごめんね、ここからなら歩いて帰れるのに」


その麗の言葉で、桃香がプッと吹き出す。

「あーーー面白かった、麗君の態度!」

「メチャ避けとるし、可哀想なくらいや」

「マジ、あのお姉さん、嫌いなん?」


麗が答えようとすると、アウディからアパートが見えてきた。

麗は桃香に告げた。

「そこだから降りる、今日はありがとう」


すると桃香は、また笑う。

「あはは。うちも麗ちゃんのアパートに入るから、一緒に降りる」

と、そのままアパートの客用の駐車場にアウディを入れてしまう。


意味不明な麗は、また慌てた。

「桃ちゃん、俺の部屋に入るの?マジ?」

「桃香」から、つい子供時代の「桃ちゃん」に変わっているけれど、麗はそこまで焦っているので、どうしようもない。


桃香が、少し真顔。

「ほら、ノロマせんと!」

「さっさと開けて、4月の夜は寒いやろ?」

「少し女将に頼まれごともあるんや」


麗は、真顔の桃香と女将の名前を出されてはしかたなかった。

万が一、女将を通じて実家に連絡されるのも、いかがなものかと思った。


「じゃあ、開けるよ」

「入って、桃ちゃん」


ただ、桃香はそんな麗の言葉など、ほぼ聞いていない。

麗がアパートのドアを開けると、麗より先にアパートに入り、騒ぎ出す。


「あらーーー!マジ?殺風景の極みやなあ!」

「掃除は・・・うーん・・・これは几帳面で地味な麗ちゃん、しっかり磨き込んどるやん」


麗は、「その地味」は何だと思うけれど、桃香の大騒ぎは止まらない。


「えーーーっと?冷蔵庫はっと・・・」

「何?水と珈琲豆しかない?」

「普段、何食べとるん?」

「マジ?米もパンもない?」

「調味料もない?」

「茶碗・・・箱から出していない?」

「マジで呆れるわ、どうして食生活まで地味なん?」

「いや、これは地味とは言わん、まるで砂漠や、いや南極や!」

「なあ、麗ちゃん、ペンギンかて食事はするんや」

「麗ちゃんの部屋って、生活感ないやん」


・・・・・

とにかく大騒ぎがすさまじいので、麗は何も言えない。


食生活に苦言を呈した桃香は、次に寝室に向かい、また騒ぎ始める。


「さーーって!妖しい本があるかなあ?」

「麗ちゃんの好み知りたいなあ?」

「スレンダータイプ?グラマータイプ?」

「それとも金髪巨乳?」


そんな本などない麗が、「フン」と落ち着いていると、桃香はまた騒ぐ。

「絶対隠してあるって!若い男の子でしょ?ないとおかしいって!」


麗は「うるさいなあ、大きなお世話」と思うけれど、やはりない物はない。

うるさくて仕方がないので、とにかく珈琲でも飲ませて、桃香を落ち着かせようと思った。


麗が、珈琲豆をミルで挽き出していると、よくしたもので、アパート探検を停止し、桃香が麗の前に戻ってきた。

「ふむふむ、さすが香料屋の流れ、良い豆を選ぶ」

桃香は、実にご機嫌な顔になっている。

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