女神ガチャ


 ――25/30……パシンッ あっ

 ――24/30……パシンッ やん

 ――23/30……パシンッ もっと

 ――22/30……パシンッ もっと強く!

 

 ヒカルはライフが減るたびに自分の手を擦り、ディアーナのお尻の刻印を叩いて消していった。


「ま、まずいぞ……なんかこれ、変なプレーな感じになってるし……」


 そんなこんなであっという間に20/30になった時、ドコからともなく声がした。


 ――死んでしまうとは情けない

 目覚めよヒカル

 汝にチャンスをやろう

 さあ、運命のルーレッタを回すのだ

 

 そして中空に円状のリングが複雑に絡み合った黄金のオブジェが現れた。まばゆいばかりの光を放っている。


「わっ、な、なんだこれ」

「女神のルーレッタね」

「女神のルーレット?」

「まーそんなとこ。これで新しい女神を降臨させることができるの。女神1人だけじゃあ足りないってときに現れる女神補完だよ」

「え? 女神を選べるのか? 巨乳とか」

「選べないわよ! ランダムで誰が出てくるかわからないの」

「ガチャか……女神ガチャか」

「私だけじゃダメって思われたってのがムカつくけど……チャンスね。ヒカル! いい女神を引くのよ! 胸が小さくて適度に弱い女神を!」

「はーあ? なんだよそれ」

「アンタが私の攻撃に耐えられないってんだから、強すぎてもダメでしょ」

「いや、そこじゃなく胸が小さいってトコだよ」

「はい、早くする! じゃないと消えちゃうよ」

「ち、無視か。わ、わかったよ。巨乳、巨乳、巨乳~今度こそ巨乳の女神さまが出ますよーに! ルーレット――スタート」


 ヒカルが巨乳のがんをかけてルーレットを回そうとしたとき、雷のような光がして、ルーレットが消えてしまった。


「あ、ああああ~女神ルーレットが! 俺の巨乳が消えてしまったぁあああ」


 膝から崩れ落ちるヒカルの頭上に今度は黒い闇が広がっていく。その闇の中から声がする。

 

 ――ワタシの剣を返しなさい

 

 見上げれば、その黒い闇の中、銀色の髪に真っ黒な服の女……幼女があった。幼女はヒカルを見下すようにして中空に静止している。

 

「えっと……どちら様でしょうか?」

「貴方に名乗る名前などないのデスわ」

「んだと! 目上の人に対してその口の聞き方は! ちょっと降りてこい! お尻ペンペンしてくれる!」

「目上デスって?」

「あ! アンタはエレナ!」


 思い出したようにディアーナが声を上げた。


「ん? ディアーナ知ってるのか? コイツのこと」

「う、うん……」

「フッ ディアーナさん……騒がしい貴方を天界で見ないと思ったら、こんなところに堕ちていたのデスね」

「おいディアーナ! 今コイツ鼻で笑ったぞ? オマエ、笑われてんぞ?」

「ぐぎぎぎぎぎぃ~分かってるわよ。分かってるし、おいエレナ! アンタ、女神のルーレッタに介入していいと思ってんの? 許されると思ってんの?」

「介入などしていませんわ。ワタシは呼ばれたのデス。そこのシミッタレた人間氏にね」

「え? 俺? 呼んでない呼んでない。Bカップ幼女なんて呼んでないよ。俺そういう趣味ないし、俺が呼んだのは巨乳女神だからさ。じゃ、そーいうことだから帰って帰って!」

「オイ人間氏。貴方、死にたいのデスか? 死に急ぐのデスか? いいでしょう。ワタシが引導を渡してさしあげましょう」


 エレナはなにやら口の中で呪文を唱えると空中に魔法陣を描こうとしていた。

 が、どうやらうまく行かない。


「………ん? どーした? なんか渡してくれるんじゃないの?」


 エレナは中空に張り付いたまま手をパタパタとふっているだけだった。


「フンっ、エレナ。降臨しないと魔術は無理よ」

「チッ」

「ハイ、ココにサインしてねー」


 ディアーナはいつかの契約書をエレナの前に差し出した。エレナは渋々そこにサインした。


「おっほっほっほっほーコレでアンタも同類ね。っていうか私の方が先輩よ!」

「相変わらず貴方はウルサイデスね。ワタシは用が済んだらとっとと帰りますからご心配なく」


 エレナのカラダはゆっくりと降りてきて着地した

 

「さあ、返してくださいな」

「だ、だからさっきからなんのことだよ」

死魂剣デスペラードを使ったでしょう? それはワタシのモノ」

「え? これ? そーなの?」

「そうなのデス。以前降臨したとき、盗まれたのデス。だから返しなさい。返さないというのデスか! どうしてもデスか! そうデスか分かりました。それならば命をいただきます。さあ覚悟なさい!」


 エレナは独りで喋りながら、右手で魔法陣を描き始めた。


「……盛り上がってるトコ、すまんけど、別にいいよ。返すよコレ」

「え? その冥界の至宝と言われる魔剣、死魂剣デスペラード、惜しくはないのデスか?」

「いや、だって呪いの剣でしょコレ。実際問題プリーストにはまったく効かないし、ヨワヨワ剣だし。いらねーなあって」

「なんですと! 知らないとは恐ろしいことデスね。ま、まあいいでしょう。それさえこの手に戻ればワタシはかまいません」


 ヒカルは剣をエレナの前に差し出した。それをエレナが掴んだが……


「は、はやく手を離しなさいよ」

「や、離してるよ。逆にオマエが受け取れよ」

「離せ!」

「受け取れ!」

「離せ――い!」

「受け取れ――い!」


 死魂剣デスペラードはどうしてもヒカルの手から離れようとしなかった。おかしなもので、その辺に置くことはできる。しかし、それをエレナが掴もうとすると、すぐさまヒカルのもとに死魂剣デスペラードは戻ってしまうのだった。


「ねーねーエレナ~」

「なんデスか!」


 ぼーっとふたりのやりとりを見ていたディアーナが声を掛けた。


「その剣ってさあ~もうヒカルをあるじと認めちゃったんじゃないの?」

「ウ、ウルサイのデス」

「でもさぁ~」

「ウルサイ! ウルサイ! ウルサイのデス! わ、分かりましたよ。ええ~そのようデス。でしたら作戦を変えるまで。この人間氏……ヒカル氏ごと死魂剣デスペラードを我がモノにするまで!」

「え?」


 突然、突進してきたエレナに攻撃されるとヒカルは身構えた。

 が

 

「不束者デスが、よろしくお願いいたしますデス」


 エレナは目の前でいきなり土下座した。


「はい?」


 あっけに取られたヒカルは、解説をもとめてディアーナのほうを見たが、ディアーナは『やれやれ』といった様子で首を横にふるだけだった。



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