四曲目『似てる二人』
祠から戻ると空はすっかり暗くなっていた。
デルトは丁度夕飯の支度をしていたので、俺たちも手伝うことを話すと快く了承して貰えた。
台所にいるのはデルト、俺、そして……。
「ヘイ、タケル。それ取ってくれ」
ウォレスだった。
言われた物を手渡すと、ウォレスは鼻歌交じりに慣れた手つきで食材を切り始める。
故郷ではウォレスは幼い兄弟たちに食事を作っていたらしく、その腕前はかなり上手い方だ。
ちなみに、Realizeで料理が出来るのはウォレスと俺だけ。真紅郎は料理をしたことがないようで、サクヤも同じ。やよいに関しては出来なくはないけど、そこまで自信はないようだ。
さすがに男二人に料理の腕で負けているのが悔しいのか、やよいはたまにウォレスに料理を習ってるらしい。らしい、というのは知られたくないのか絶対にその姿を見せてくれないからだ。
まぁ、料理が出来る人が増えることは助かるから
いいんだけど。
「むむ? ウォレス、お前は何を作ってるんだ?」
「これか? 肉じゃがだぜ! モドキだけどな」
「にくじゃが? 聞いたことがない料理だ」
ウォレスが作っているのは肉じゃがモドキ。どうしてモドキかと言うと、この異世界に醤油がないから代わりに港町で買った魚で作った魚醤を使っているからだ。
ウォレスは肉じゃがモドキを作りながら不敵に笑みを浮かべる。
「ハッハッハ! そりゃそうだろ! これはオレの故郷の料理だからな!」
「いや、お前の故郷ではないだろ……」
「日本はオレにとっては第二の故郷みたいなもんだ! だから
カラカラと笑うウォレスに呆れてため息が漏れる。別にいいけどさ。
そうこうしている内に肉じゃがモドキもいい具合に出来上がり、俺たちはデルトが作った料理と合わせてリビングに持って行く。
リビングには真紅郎たちの他にキリも一緒にいた。
家に戻ってからもキリはサクヤに質問責めし続け、サクヤは辟易としている様子だった。
「出来たぞ! 並べるから手伝ってくれ!」
サクヤに助け船を出すように声をかけ、テーブルに料理を並べていく。
デルトが作ったのはこの辺りで狩ったモンスターを使った、ジビエ料理とサラダ。そこにウォレスが作った肉じゃがモドキを置いて、今日の夕飯が出揃った。
「んじゃ、いただきます」
全員が席に着いているのを確認してから、手を合わせて料理を口に運ぶ。肉じゃがモドキを食べてみると、魚醤を使っているから少し臭みはあるけどしっかりと肉じゃがらしい味付けになっていた。
「うん、美味いな。さすがウォレス」
「ハッハッハ! だろう? お、これも美味い!」
ウォレスはデルトが作ったジビエ料理が気に入ったのか満足げに笑いながら食べ続ける。
未知の料理である肉じゃがを恐る恐る食べたデルトは、口に運んだ瞬間にカッと目を見開いてガツガツと食べ進めていた。
「う、美味い! なんだこれは! 美味いぞ!?」
「……おいしい。これ、好き」
デルトに続いてサクヤも目を輝かせながら平らげ、一気に肉じゃがモドキを食べ終えた二人は同時に皿をテーブルに置いた。
美味しそうに料理を食べる姿とか、綺麗に平らげるところとか……やっぱり親子なのか似てる。血の繋がりを感じて思わず笑みがこぼれた。
「おいひぃ! ほれ、おいひぃよ!」
キリも肉じゃがモドキが気に入ったのかバクバクと食べている。小柄な割にはよく食べるな。
自分が作った料理が褒められてウォレスは照れ臭そうに頬を掻きながら、夕食はあっという間に片づけられた。
食休みにとデルトが用意してくれたお茶のような物を飲んでいると、膝で丸まっているキュウちゃんを撫でながらキリが思い出したように口を開く。
「あ、そうだデルトおじさん。パパが明日の祠警備について話があるって言ってたよ?」
「む? そう言えば明日は俺が担当だったな。あとでモーランのところに行ってみるか」
「祠の警備?」
ふと気になって聞いてみると、デルトは腕組みしながら顔をしかめて答えた。
「あぁ。祠にある御神体から漏れた魔力に釣られてモンスターが迷い込むことがあるんだ。最近は特に多くてな……」
「え? じゃあ今日祠に行ったけど、結構危なかったのか?」
「行ってきたのか? ま、キリはまだ若いが実力はそれなりにある。お前たちも修羅場を潜ってきているようだし、モンスターに遅れを取ることはないだろうが……」
そう言ってデルトは深いため息を吐く。
「御神体から漏れ出している魔力が日に日に大きくなっていてな。魔力を感知出来るほどの強いモンスターも出るようになってるんだ。さすがにキリでも危ないだろう」
「えぇ!? 私だって戦えるもん!」
「成人したダークエルフ族でも苦戦するような相手も
迷い込んでいる。落ち着くまでは祠に近づくのはやめておけ」
デルトに言われてキリは不満げに頬を膨らませながらも渋々頷いた。
祠は集落からそこまで離れていない。そうなると集落の住民たちにも危険だな。
今日行った時はモンスターがいなかったけど、いつ来てもおかしくない。
「サクヤ。デルトを手伝ってやったらどうだ?」
ふと思いついた俺はサクヤに聞いてみる。
いきなり話を振られたサクヤは目をパチクリさせて首を傾げていた。
思いついたこととは、サクヤとデルトを二人きりにしてやることだ。夕食の時にも思ったけど、やっぱりこの二人は親子に違いない。
でもサクヤは記憶を失っていてデルトを父親だと思っていないし、せっかく生き別れた息子と出会えたデルトが可哀想だ。
なら、今からでも親子の絆が深まるように二人で行動する機会を増やした方がいいだろう。
そう思って提案してみると、サクヤは眉をひそめ
て悩み始める。
「……タケルも一緒なら、いい」
「え? お、俺!?」
「……うん」
サクヤが悩んだ末に出した答えに呆気に取られる。親子二人にしたいのに俺がいるのはどうなんだ?
そう考えているとデルトが豪快な笑い声を上げて笑い出した。
「ガッハッハ! 俺は別にいいぞ? 明日は俺一人だったから、タケルとオリンがいるなら助かるからな!」
「え!? ず、ズルい! 私も行く!」
「キリはダメだ」
「どうしてぇ!?」
サクヤも行くと分かるとキリが騒ぎ出す。だけどデルトはきっぱりと断り、キリの頭に手を乗せた。
「お前は次期族長で、しかも一人娘だろ? もしものことがあれば、この集落の未来が危うくなる。それにお前はまだ若い。焦らず、鍛錬に励むんだ」
「で、でもサクヤも若いでしょ!?」
説得してもキリは納得せずにサクヤを指さす。すると、デルトは真剣な眼差しでサクヤを見つめた。
「オリンはもはや成人したダークエルフ族の戦士よりも実力が上だ。見ただけで分かる」
戦士長としてこの集落の戦士たちを取り纏めているデルトは、サクヤの戦っている姿を見なくても実力が高いことを見抜いている。
真っ直ぐに褒められたサクヤは照れ臭かったのかそっぽを向いていた。
「その若さでそこまで鍛えたオリンは、まさしく俺の息子だ。俺もオリンぐらいの頃は大人顔負けの実力で負け知らずだったからな」
「むぅ……分かった。でもサクヤ、無理したらダメだからね?」
遠い目をしながら昔語りを始めたデルトを無視したキリは、とりあえず納得してサクヤを心配し始める。
面倒臭そうにサクヤが頷き、明日の祠の警備は俺とサクヤも参加することになった。
こういう時に我先に手を挙げそうなウォレスは話に入ってこなかった。多分、俺の考えを察したからだろう。
出来ればデルトとサクヤを二人きりにしたかったけど……仕方ないか。
話はこれで終わり、俺たちは用意して貰った部屋で一夜を明かした。
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