第一楽章間奏『新人は雑用から!』

 ユニオンメンバーになって、早一週間。

 薬草の採取や人々を脅かすモンスターの討伐と、元の世界じゃ創作の中でしかないような依頼に俺たちは胸を躍らせていた……。


「と、思ってたんだけどなぁ」


 俺は適当な石に腰掛けながら深い深いため息を吐きながらうなだれる。

 すると、サボっている俺を見た一人の男性が怒鳴ってきた。


「おい、そこの若いの! 仕事もしないでいい身分だなぁ!? ユニオンに報告すんぞ!」

「は、はい! す、すいませんでしたぁぁぁ!」


 筋骨隆々で強面の男性の野太い怒声に慌てて立ち上がる。

 そして、足下に置いていた物……ツルハシを持った。


「どうしてこうなったんだ……」


 今、俺がいるところは街から竜車で一時間ぐらいのところにある、洞窟。

 そこには屈強な男たちが汗を流しながら黙々とツルハシを振り、岩盤を砕いていた。

 汗くさい、埃っぽい洞窟に俺は辟易としながらツルハシを振る。すると、同じようにツルハシを持ったウォレスが近づいてきた。


「ハッハッハ! どうした、タケル! もうへばったのか!?」

「……違うっての。どうして俺はファンタジーな世界に来て、こんな肉体労働をしているのか疑問に思ってただけだ」


 俺とは違って元気なウォレスはゲラゲラと大笑いする。


「仕方ねぇだろ! ユニオンに入ったばかりの新人は、最初の何日かは雑用しないといけねぇんだからな!」


 現実を叩きつけてくるウォレスに、俺はため息で答えた。

 そう。ユニオンに入ったばかりの新人は、数日間雑用をこなさないといけない決まりがあった。

 街の清掃作業、街を取り囲む壁の補修作業、酒場の接客や皿洗いなどなど……そう言った雑用をしてから、ようやくユニオンの依頼を受けることが出来る。

 俺たちの世界で言う、試用期間みたいなもんだ。やってることはアルバイトみたいな感じだけど。


「おい、そこぉ! 喋ってる暇があったら手を動かせ!」

「おっと、いけねぇ。あいよ、親方! このオレ、ウォレスに任せなぁ!」

「威勢がいいじゃねぇか! 気に入った! お前、俺のところで働かねぇか!?」

「ハッハッハ! それも悪くねぇ! だけど、せっかくユニオンメンバーになったからな! 断るぜ!」

「そいつは残念だ! 仕事終わったら飲みに行くぞ!」

「そいつはいいな! 奢りなら行くぜ! ハッハッハ!」


 あらゆる鉱石が採れる洞窟での採掘作業。その現場監督に檄を飛ばされたウォレスが笑いながら返事をすると、現場監督は豪快に笑う。

 なんというか……凄く馴染んでるな、ウォレスの奴。


「はぁ……やよいたちと一緒にすればよかった」


 後悔先に立たず、だな。

 やよいと真紅郎は今、酒場で働いている。やよいは接客、真紅郎は皿洗い……かと思ったら接客は真紅郎、皿洗いはやよいだった。

 初日はやよいが接客だったけど、どうやら客と揉めたらしい。セクハラされそうになってキレたやよいが、客をぶっ飛ばしたとか……。

 その結果、やよいは皿洗いに回されたようだ。洗い物多すぎ、手荒れになる、仕事終わらない、って嘆いてたなぁ。

 そして、真紅郎は接客してる。しかも、女装しながら。

 本気で嫌がってたらしいけど、酒場のマスターに命令されてしまったと死んだ目をして離していた。

 ちなみにマスターは……いわゆる、オカマでした。


「……まだ、こっちの方がマシなのか?」


 やよいと真紅郎の現状を思い、ふとそんな考えが頭に過ぎった。

 いや、そんなことない! こっちの方がキツいだろ!? どうした、俺! 筋肉だらけのこの職場に毒されてきてる!?


「このままじゃ、脳味噌まで筋肉になっちまうよ……」

「そこ! サボるな!」

「はいぃぃ! すいませぇぇん!」


 現場監督にまた怒鳴られ、俺は必死にツルハシを振りまくる。

 こんな感じで、俺たちは一週間の試用期間を終え、ようやくユニオンの依頼を受けることが出来るようになった。

 

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